【東京メンタルヘルス所長 武藤清栄】
ストレスの多い介護現場のメンタルヘルス対策において、管理監督者が職場環境の改善を図ったり、部下からの相談に応じたりする「ラインケア」は大きな役割を担います。
三奈世さん(89歳、女性)=仮名=は、有料老人ホームに入所しています。要介護度3と認定され、立ち上がることや歩行、移動などの動作がほとんどできず、普段はベッドの上で生活しています。入所して8か月ほどになりますが、夏になって三奈世さんは「墓参りに行きたい」と何回も訴えるようになりました。それに対し、見舞いに来た家族はいつも「外は暑くて熱中症になってしまうから」「きょうの夕ご飯は何だろうね」などと言って、三奈世さんの気持ちを否認したり、話をすり替えたりします。
実は家族は「三奈世さんがいったん家に帰ったら、もう二度とホームに戻りたくないと言い張るのではないか」と心配しているのです。入所の際、三奈世さんは家族に罵声を浴びせたり、物をぶつけたり、想像を絶するほど激しく抵抗した経緯があり、「あんなことは二度と経験したくない」という思いを強く持っているのでした。
ですが、三奈世さんにとっては、娘や息子たちがなぜ「墓参りに行きたい」という気持ちを受け止めてくれないのか理解できません。何度も否認されたり、話をすり替えられたりしているうちに、三奈世さんは抑うつ気分が強まり、スタッフが声を掛けても、やさぐれて返事もしなくなりました。気力も失い、認知症が進行する可能性があります。
次回配信は10月6日5:00を予定しています
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