【宗和メディカルオフィス代表 原田宗記】
クリニックの開業に当たって加入する保険には、医療過誤や患者トラブルなどを対象とした「医師賠償責任保険」、盗難や火災、水害などによる損害を補う「店舗総合保険」、万が一の時に借入金の返済原資とする「生命保険」など、多種多様なものがある。経営リスクの回避には安心だが、内容をよく確認せず、勧められるままに加入すると、病気などによって保険金が出ないということもある。何かが起きて初めて分かる保険の役割や価値。節税対策として勧誘されることも多いが、必要以上の加入は経営を苦しくする。
内科の診療所を開業して4年目、40代前半の院長のケースを紹介する。
院長のコミュニケーション力の高さと夜8時までの診療が評判を呼んで、患者は順調に増え、開業2年目で黒字。3年目の所得は3000万円を超え、その年には4000万円を超えそうな勢いだった。開業時に中古の建物付きの物件を購入・改装しており、借入金は総額1億円を超えていた。月々の元金返済は60万円以上。患者が増え、収入が増えると、自信も出てきて、生活も派手になりがちだ。そうなると、周りからいろんな投資や勧誘の話も多くなる。ついついこの程度ならと誘いに乗る。多少の損をしても仕事で取り返せると考えてしまう。そんな時期だった。
ダイレクトメールの医療法人化に関するアンケートに回答したことがきっかけで、新たな保険の加入話が持ち上がった。借入金もあり、家族もいるので、月額20万円の生命保険に既に加入している。黒字になって2年目で、まだまだ患者も増えているので、スタッフを増員し、クリニックの運営費用は今後ますます増加すると考えられた。勧められていたのは月の保険料が40万円以上にもなる生命保険。年間の保険料はざっと500万円に上る。医療法人化すれば経費で落とせる部分もあるから節税になると担当者から吹き込まれたようだ。
院長には「一般的には開業に向いてない場所で患者を増やし、成功させた」という自負がある。まだまだ患者も収入も増えると考え、調子に乗っている。そういう部分を見透かした勧誘で、担当者はピッタリマーク。心の傾き加減を見ながら、接待攻勢をかけ、何とか加入させようと必死だった。「担当者から一度話を聞いてほしい」と院長から私に依頼があった。
次回の記事配信は、2月20日5:00を予定しています
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