【筑波大医学医療系准教授 三木明子】
患者による暴力が発生したとき、医療者はどう対応したらいいのかを今回は考えてみたい。対応を身に付けるには、包括的な暴力防止対策のポイント=表、クリックで拡大=のうち、「5.職員の研修・訓練の実施」が必要である。「診察室で患者が刃物を持っていたら、どうするか?」「患者が刃物で医師を刺そうとしていたら?」と問われると、病院職員の多くは「刃物を取り上げる」「身近にある物を投げ付ける」「止めに入る」「医師と患者の間に割って入る」と答える。どれも安全性が低く、自分の命を顧みない危険な行為である。病院職員は刃物類を持った人への対応技術を習得する機会がないのだから当然だ。
では、そうした技術を習得し、応戦する訓練を行えばいいのだろうか。
私は複数の刑務所を視察に訪れているが、武道を極めた刑務官の方々が、入職時に受け身中心の矯正護身術を習得し、定期的に道場で訓練していることを知り、大変驚いた。また、警察官が第一線で刃物類を持った人に対峙できるのもまた、日ごろ訓練を重ねているからだ。私たち病院職員が彼らと同じレベルにまで達するのは無理である。
病院職員がまず身に付けるべき対応は、「安全に逃げること」である。人は身の危険を感じたときに、「闘争」と「逃走」のどちらかの方法で回避しようとする。「刃物を取り上げる」「止めに入る」行為は闘争であり、危険を伴う。しかし、逃走もできないことが多い。身体がこわばり、かたまる(フリーズ状態になる)からだ。日ごろから訓練をしていなければ、いざ身の危険が迫っても自信を持って適切に対応できない。だから、安全に逃げるにも職員の研修・訓練が必要となる。
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