【畑埜クロスマネジメント代表 畑埜義雄】
ある看護師長は頭がよく、勉強熱心だった。まだ若いが、集中ケア認定看護師の資格を有し、指導者となるべき一定の年齢に達していたことから、看護師長に抜擢され、昨年、ICUの病棟に異動してきた。優しくて面倒見がよく、お人よしの看護師長と言われていた。このICU病棟で問題が起きた。この春、看護学校を卒業したばかりの新人看護師5人が配属されてきたが、そのうち3人が半年ほどで辞めてしまったのだ。看護部でもこれは大問題になった。そこで、わたしがコーチとしてその病棟の問題に介入することになった。
その病棟には10年以上勤続しているベテラン看護師が3人もいた。いずれも主任、副師長の役職には就いていない。その中でも、特に2人が“お局さん的要素”を持っていた。いわばチームを仕切るボス猿である。それは多分、経験と性格的なものによると思われたが、彼女たちには豊かな知識と経験があり、現場ではミニドクター的存在で、医師からの評価は高かった。研修医より信頼できた2人である。
この2人の勤務態度に問題はないのだが、部下に対する教育が厳しすぎるのが難点だった。卒後5、6年の看護師でも何を責められるか不安で、一緒に当直するのを怖がっていたくらいだ。
しかし、看護師たちの面談によって、前看護師長の時代には、彼女たちにボス猿的な要素は顕著でなかったことが判明した。彼女たちはただ、昔、自分が受けた教育をそのまま現在の新人に対して行っていただけなのである。だからといって、現在の「打たれ弱い」新人看護師に、「打たれ強くなりなさい」と言ったところで通じないだろう。それに、新人を変える教育には時間がかかる。
問題の1つは新人に対する教育の厳しさであることは分かった。では、どうすれば良かったか。看護師長は、若手看護師を積極的に守るか、2人のボス猿の教育を良しとするか、どちらかを決断すべきだったが、「和」を重んじるタイプであり、どちらにもいい顔をしてしまい、状況を放置してしまっていた。新しい入院患者が入ると、患者の世話をしている看護師をすぐに手伝いに行ってしまう様子からも、指揮官になることを避けているように見えた。若手と一緒になって汗をかき働くことで、満足感を得ているのでないかと思われた。
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