前回に引き続き、国内製薬企業の2012年3月期第2四半期(4-9月)決算のポイントについて、クレディ・スイス証券の医薬品シニアアナリストの酒井文義氏に聞いた。また、世間の注目を集めている環太平洋パートナーシップ協定(TPP)について、現状での見解を語ってもらった。
アナリストが語る決算・中医協・TPP-(上)
―第一三共、アステラス製薬についてはどのように分析していますか。
第一三共は、米国で抗菌薬クラビットの特許切れに伴うロイヤルティー収入減少が直撃しており、減益幅は非常に大きかったです。また、子会社ランバクシーが10年に大きく利益貢献した分、その反動で今年は減っており、表面上の数字はよくありませんでした。
同社の高血圧症治療薬オルメテック関連では、合剤が厳しいですよね。例えば、米国では合剤を飲むよりも、後発品の単剤を2つ飲んだ方が安いという話になっています。日本では、他社も合剤を出しているということもあり、合剤間の競争が厳しくなってきています。
アステラスについては、無難に終わったという印象で、大手の中では一番安心感があります。米国で免疫抑制剤プログラフの売り上げの減少ペースが加速しているのが気になりますが、過活動膀胱治療薬ベシケアもそこそこ売れていますし、ロシアを中心に従来製品が売れており、アステラスが目指すグローバル展開はできているのかなと感じています。あとは、9月に発売した過活動膀胱治療薬ベタニスが、「生殖可能な年齢への投与はできるだけ避けること」という警告が添付文書に記載される中で、国内でどこまで売れるか、そして米国で承認されるかどうかがポイントになってくるのではないでしょうか。
また、アステラスは他社から導入した国内製品、例えば合成抗菌薬ジェニナックや消炎鎮痛薬が好調ですし、社外のリソースを上手に回しているなという印象です。
―準大手では塩野義製薬が米国事業の悪化に伴い、業績予想を下方修正しています。
塩野義は、もう頼みの綱である高脂血症治療薬クレストールに頼るしかないという印象です。このままではクレストールの米国での特許が切れる16年にはどのような会社になってしまうのかという懸念があります。
米国事業の立て直しに向け、さまざまな策は打っているようですが、今の米国の市場環境を見る限りでは簡単に売り上げは戻らないことが想定されるので、期間損益は横ばいのペースがしばらく続くとみています。
―協和発酵キリンと中外製薬(共に12月期決算)は、腎性貧血治療薬ネスプ/エスポーとミルセラ/エポジンの戦いが激化しています。
中外が押され気味です。中外は東日本大震災で宇都宮工場が被災したこともあり、その影響が第3四半期(1-9月)まで色濃く出た決算だなという印象です。一方、協和発酵キリンはネスプが順調に伸びており、英プロストラカンの買収で背負ったのれんを吸収している格好にはなっています。
ミルセラが盛り返すかどうかは、まだちょっと見えません。中外としては利益率の高いエポジンからの切り替えを進めることで、売れば売るほど利益率は下がるわけですが、どこまで思い切ってできるかに懸かっています。
医療現場の視点で考えると、ネスプの投与は週1から2週に1回、ミルセラは月1回ということで、患者によってインターバルも違いますし、在庫管理も違ってくるという点では、マネジメントが難しいと思います。ミルセラが発売されたから、「はい、採用しましょう」というわけにはなかなかいかないのかもしれません。
―決算から離れますが、田辺三菱製薬は11月16日に薬価が決まったC型肝炎治療薬テラビック(1日薬価1万2798.9円)や多発性硬化症治療薬イムセラ(8172円)に関心が集まっています。
田辺は一部のアナリストの期待値が高いため、株価が高いところからスタートし、何か悪いニュースがあればすぐ落ちてくるというパターンをこの1、2年繰り返しています。
テラビックの米国での1日薬価が約4万8000円であるのに対し、国内の薬価があまりにも低過ぎたため、株価も反落しました。とはいえ、田辺はテラビックを含む新薬5製品で通期売上高予想100億円ということしか開示していませんが、その中でテラビックは結構大きなウエートを占めていると思うので、実際にはどのくらいの数字が出てくるかに注目しています。
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