
クレディ・スイス証券医薬品シニアアナリストの酒井文義氏
製薬企業各社の決算発表が相次いだ11月。中央社会保険医療協議会(中医協)では2012年度診療報酬改定に向けた議論が本格化し、世間では環太平洋パートナーシップ協定(TPP)が大きな話題となった。業界をめぐるさまざまな動きをクレディ・スイス証券医薬品シニアアナリストの酒井文義氏に解説してもらった。(津川一馬)
武田薬品工業の決算発表では、スイスのナイコメッドの連結に関する詳細が発表されました。通期業績予想の利益面を下方修正したことは、ある程度想定していたことでしたが、武田の株価が下がったというところからも、マーケットとしては大型買収の評価はなかなかできないのかなと感じました。
それから、塩野義製薬が決算発表前に通期業績予想を下方修正しました。米国事業の悪化をなかなか止血できていないという悪い内容で、想定を上回る下方修正だったこともあり、ネガティブな印象を持ちました。
数字がよかったのは大塚ホールディングスです。デンマークのルンドベック社との中枢神経領域でのグローバル・アライアンス契約により、総額最大18億ドルの受け取り一時金を得ることを発表しました。
このほかの企業については、業績面から言えば各社とも想定内に収まったと思います。
―武田によるナイコメッドの買収をどのように評価していますか。
これはアナリストの中でも分かれると思うので、あくまでもわたしの個人的な見解ですが、非常にマネジメントリスクを抱え込むことになるのではないかとみています。年間3000億円の売り上げのナイコメッドに武田は1兆円を出しました。世界各国の流通網を買ったという話が正当化できるようになり、今回の買収が武田の価値として織り込まれるまでには2、3年かかるのではないかと考えています。
武田としては新興国市場への進出が遅れるという危機感もあったでしょうし、この規模のM&Aをできるのは国内製薬企業では武田だけです。いわば、最後のカードを切ったということではないでしょうか。ただ、08年に買収した米ミレニアムの成果もまだ十分に認識されない状況の中での今回の買収ですから、ちょっと消化不良気味だなという感じはします。
―武田の決算では、糖尿病治療薬アクトスの不調が目立ちました。
アクトスの売り上げの減少は、欧州に端を発した膀胱がんリスク問題が大きく影響していると思います。アクトスは膀胱がんリスク以外に、これまでも心血管リスクなど、いろいろと指摘されましたが、インシュリン抵抗性改善剤としては唯一の薬剤である上に、正直、有効性は高い。だからここまで使われてきたわけですが、それがここにきてつまずいたという印象です。
それから、国内ではDPP-4阻害薬がかなり伸びていますので、これにかなりシェアを奪われていることも、売り上げの減少要因だと思います。
武田のDPP-4阻害薬ネシーナについては、長期処方が解禁になりました。一気呵成にいくというのが武田のスタンスですが、先行しているMSD/小野薬品工業のジャヌビア/グラクティブがかなりDPP-4阻害薬市場を押さえています。今後、どれだけ売り上げを伸ばせるかは、DPP-4市場そのものが拡大するかどうかということと、製品間の競合の中でいかに優位性を付けていけるのかに懸かっていると思います。
(残り1147字 / 全2539字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】