【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
中央社会保険医療協議会から2022年3月23日に、20年度のDPC導入の影響評価に係る調査「退院患者調査」の結果報告について、つまり診療実績が公表された。20年度はコロナ禍であり、特に、初めて緊急事態宣言が発せられた第1波では、初診紹介患者や予定手術患者が著しく減少したことは本連載でも指摘してきた(連載第131回)。その後も、年末の第3波など地域によるが影響は大きく、かつてないほど苦戦した1年として後世に語り継がれることになることだろう。いや、人口減少時代の厳しい未来が10年程度早くやってきたという見方もあるかもしれない。
病院としては、コロナ診療と通常診療の両立が求められる非常に難しい舵取りを迫られ、今もその難局から解放されたわけではない。コロナ禍という有事の状況で通常の診療が行えないことは致し方ないことであり、その結果、患者数が減少しても、医療機関が社会を支え貢献した事実は揺るがない。そのような状況において、歯を食いしばってやってきた病院、あるいはスタッフに、患者数が少なかったと言ったところで事実は変わらない。実際、21年度までは空床確保の補助金が投入されたことで、財務的に窮地を脱した病院が多いと推測する。
ただ、そろそろ自助努力で前に向かわないといけない時期に差し掛かっており、まずはコロナ禍の実態を明らかにすることが重要であると考えた。本稿では、病院機能別、地域別等の退院患者数等の増減状況について、全国の19年度と20年度データを用いて比較した。
表1は、全国の退院患者数等の増減について19年度と20年度を比較したものである。なお、20年度の出来高算定病院は除外して分析を行っている。
退院患者数については前年度比で13%減少しており、紹介あり入院および緊急入院とも減少していた。全身麻酔件数は7%減少したのに対して、手術件数は9%と上回っており、不急の手術が延期された結果であると分かる。一方で、化学療法ありの入院については減少幅が小さく、がん患者の減少は限定的だったことを意味するのであろう。ただし、入院における化学療法ありの退院患者数を用いており、外来での実施率は変わらないという前提である。
緊急入院が16%減少したのに対して、救急車搬送入院の減少は8%にとどまり、重篤な緊急入院を意味する救急医療入院についても、9%の減少のみであった。救急車搬送は重篤な緊急入院の代表であることから、「ウォークイン」などの比較的軽症な症例は減少したが、重篤な緊急入院の減少は少なかったことを意味する。ただし、救急医療入院については、コロナ特例で救急医療管理加算が評価されたこともあり、特に、これまで算定率が低かった地域において、前年度比較で増加しているなどの事例も見られた(グラフ1、連載第84回参照)。一方で、救急医療入院以外の予定外入院については、都道府県別で見ると全ての地域で減少していた=グラフ2=。
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次回配信は4月11日5:00を予定しています
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