【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
前稿では、2021年に実施された医療経済実態調査の結果を、特定機能病院、DPC対象病院、療養病棟入院基本料1届出病院の病院機能別に分けて、その状況に言及した。高度医療を提供する特定機能病院、急性期病院の代表としてのDPC対象病院、慢性期病院の代表としての療養病棟というくくりである。
しかしながら、今、議論が大詰めを迎えようとしている診療報酬という視点からは、入院料ごとの財務実態を明らかにすることも有効であるし、さらに民間は黒字を維持しているのに、自治体病院は万年赤字と言われている。その状況を探り、さらに要因についても分析することは、地域医療構想を含め、我が国の医療を考える上では不可欠である。本稿では、医療経済実態調査の結果から、財務状況についてさらに深掘りするとともに、収益性に大きな影響を及ぼす人員配置等の実態についても明らかにしていく。
表1は、入院料別の損益差額の推移を見たものであり、20年度は全ての入院料で悪化した。コロナ補助金を考慮した場合には、急性期一般入院料1と療養病棟入院基本料1はプラスを維持している。なお、コロナ前の19年度に目を向けると、療養病棟入院基本料1だけがプラスで、それ以外は全てマイナスの状況である。全体から見れば、この業界は再投資できるような状況にはなく、我が国の医療の未来が憂えられる状況だ。ただ、ピークで38万床を超え、緩やかに減少傾向にある急性期一般入院料1については、他よりは損益差額のマイナスが若干小さいとも見える。
収益比での費用構成等を見たものが表2で、最も給与費比率が低いのが急性期一般入院料1であり、それは100床当たり医業収益が突出しているからである。これは入院料よりも、手術等の診療実績の違いによるところが大きい。急性期一般入院料1で最も多い疾患は悪性腫瘍であり、それにより医薬品費比率が高まるし、手術も積極的に行われていることから、材料費比率も高水準となる。なお、本データはコロナ前の19年度を用いているが、実額は別として、収益比という意味では、委託費比率および減価償却費比率では入院料により大きな違いは見られない。
対照的なのが唯一、損益差額でプラスを計上している療養病棟入院基本料1であり、100床当たり医業収益は少ないものの、医薬品費・材料費比率が抑えられており、給与費比率と合計しても75%程度でコントロールできている。給与費+医薬品費・材料費比率で75%ならば黒字になる可能性が高いし、80%近くになると厳しいということは、本連載でも指摘してきたところで、その傾向は変わっていない。
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