【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
財務省の財政制度等審議会・財政制度分科会は、財政健全化に向けた建議の中で、入院診療の1日当たり包括払いであるDPC制度の見直しを提案している。具体的には、「1入院包括払い」を原則とする診療報酬への転換が必要だという。
2003年度に特定機能病院等の82施設に対して始まり、DPC対象病院は着実にその在院日数を短縮してきた=グラフ1=。その背景には、DPC/PDPSの点数設定が入院期間に応じて逓減することに加え、機能評価係数IIにおける効率性係数の評価や、医療機関群における実績要件である診療密度などが関係している。
ただ、診断群分類が始まってもうすぐ20年に差し掛かろうとしているわけだから、分類の精緻化が進み、さらなる在院日数短縮のためには「1入院包括払いの導入を」という声が財政の観点から上がるのも不思議ではない。これに対して、医療関係団体等の関係者からは反対の声が強く、現行の1日当たり包括払いが我が国医療の実情には適するとの考えだ。
私は急性期の病院経営を考えるに当たって、まず在院日数の短縮、具体的には診断群分類ごとの全国平均の在院日数である入院期間II以内の退院率を重視しており、この姿勢は一貫して変わらない。それが急性期らしさだと信じているし、治療終了後に長く入院させることは患者のためにも、医療者のためにもならないし、国民医療費の無駄遣いだと考えている。結果として、高単価を実現することが急性期の証しであるとの信念を持っている。
ただ、我が国の医療提供体制では、一定の稼働率を維持しなければ赤字に陥ってしまうという現実もあり、入院期間Iなどあまりにも早い退院は不採算につながりかねない。病床稼働率は病院の業績に直結する重要指標であることは承知しているが、それは結果であり、目指すべきものではないと考える。このような短い在院日数は業績を悪化させるが、「在院日数と稼働率のバランスを」と考えがちな病院経営者の姿勢を変更させる制度設計は重要であり、在院日数短縮へのインセンティブをさらに設けることには賛同する。
だとすれば、1入院包括払いが適用されれば、おそらく私が関わる病院にはプラスの影響があり、一見すると望ましいようにも感じられる。ただ、私も1入院包括払いを今すぐに導入することには賛成しない。本稿では、病院経営の現実を踏まえ、その理由について言及する。
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次回配信は6月21日5:00を予定しています
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