【株式会社MMオフィス代表取締役 工藤高、株式会社メディチュア代表取締役 渡辺優】
2016年度診療報酬改定は、7対1入院基本料に対する「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)等の厳格化により、新基準を満たすことができない病院にとっては、非常に厳しいものだ。改定の背景にある医療機能の分化・強化以前に、病院経営の存続に対する危機感・警戒感が強まっている。
厳格化される7対1入院基本料の新基準を満たしておらず、新規入院患者の確保強化等にも限界がある場合、次のような選択肢が経営判断の代表例になるだろう。
看護必要度の新基準を満たさない場合の選択肢
①一部を地域包括ケア病棟や回復期リハビリテーション病棟等の「特定入院料」へ機能転換する
②看護必要度の基準を満たさない患者の早期退院・転棟強化を図り、7対1病棟自体の稼働率を下げる
③ICU、HCU等の急性期ユニットを取り下げて7対1病棟で運営
④すべての病棟を10対1入院基本料へ移行
⑤7対1と10対1を混在させる病棟群単位での届け出 ③の「ICU、HCU等の取り下げ」は、医療安全や病棟看護師の労働密度緩和という観点に逆行する禁断の手となるが、病院全体で7対1を死守することを優先すれば、現実的な選択肢の一つになるだろう。ただし、ICU等を取り下げたからといって、手厚いキュア、ケアが必要な患者がいなくなるわけではない。そのため、看護師は傾斜配置等により、現状の手厚い体制を維持せざるを得ない。そうしないと病棟看護師がバーンアウトしてしまう。
④の「10対1入院基本料へ移行」するとしても、現状7対1配置で確保している看護師は急には減らない。そのため、人件費(固定費)は急に減らないものの、入院料収入は激減するために赤字基調となってしまう。この激変緩和措置のために改定で導入されるのが、⑤の「7対1と10対1を混在させる病棟群単位」だ。
日本看護協会の調査によると、常勤看護職員の離職率は全国平均約11%で、2年間新規採用しなければ、2割減少する計算になる。今回の移行は、10対1へソフトランディングを図るものだ。ただし、この制度はあくまでも10対1への病棟機能転換を前提とした2年間の経過措置的な扱いである。通知文書を読む限り、2年後に経過措置延長がない限りは、全病棟を10対1へ転換しなければならないことが前提になっている。病棟数が多い大規模病院では、2年という時間軸では足りない気がする。
今回は、看護必要度の新基準25%を満たすことが厳しいA病院(500床規模)で、病棟群単位の届け出による影響を、減収だけではなく、看護必要度、人件費についても勘案してシミュレーションしてみた。この結果を見ながら、病棟群単位の届け出が現実的か否か検証してみたい。
図 病棟群単位による届け出の内容
厚生労働省平成28年度診療報酬改定説明会資料(2016年3月4日版)より引用
次回配信は3月30日5:00を予定しています
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