【第170回】美原盤さん(美原記念病院長、中央社会保険医療協議会・DPC評価分科会委員)
脳卒中患者の受け入れ件数は県内で最多、在院日数は最短―。脳・神経疾患の治療に早くから専門特化し、群馬県内で圧倒的な実績を誇る美原記念病院だが、「専門病院の将来は厳しい」と美原盤院長は話す。同病院の周辺には大規模病院の進出が相次ぎ、マーケットの奪い合いが避けられないという。こうした状況の中で急性期専門病院として生き残るため、美原院長は大病院を圧倒する高機能・高実績を維持し勝負を懸ける。(兼松昭夫)
確かに大規模病院や急性期病院への評価を優先する内容でしたが、当院でもおよそ1割の増収となりました。中でも、手術料引き上げとリハビリの評価の充実が大きかった。手術に関しては、難易度が高い技術が非常に高く評価されたことが影響し、リハビリでは、疾患別リハビリの「早期加算」が増点したり、回復期リハビリ病棟入院料に「充実加算」が新設されたりしたことが増収につながりました。報酬改定の前後で当院では何ら対応を変えておらず、これまで取り組んできたことに評価がついてきたと理解しています。
―来年の診療報酬改定はどうなるとみていますか。
急性期の段階を終えた患者さまを受け入れる、いわゆるポストアキュートといわれる亜急性期や医療・介護連携、在宅医療推進などにスポットが当たるのではないかと考えています。評価方法としては、医療機関の構造や体制(ストラクチャー)を重視する従来の仕組みに代わり、診療内容(プロセス)や、診療結果(アウトカム)に対するウエートが高くなっていくのは間違いないでしょう。昨年度の報酬改定で実施されたリハビリの早期加算や手厚いリハビリの実施による充実加算も、良好なアウトカムに結び付けるためのプロセスを評価するものと受け止めています。
■病院の看板ではなく、パフォーマンスに応じた報酬を
―医療機関に求められるアウトカムとは具体的に何でしょうか。
例えば急性期医療では、在院日数がどれだけ短縮したかや、どれだけの患者さまが改善されているかといった指標です。慢性期医療では、在宅復帰率などが重要な指標になるはずです。医療には急性期、亜急性期、慢性期などのステージがあり、どの病院も自分たちの役割としてこれらのどれかを掲げています。このため、病院に求められる役割はそれぞれ異なるはずですが、急性期病院の“看板”を掲げているのに、実際には急性期医療を十分に提供していないケースもあります。慢性期病院に関しても同じことが言えるでしょう。
今後は、病院が掲げる看板ではなく、実際に提供している医療の内容を評価する形になるはずですし、そうあるべきです。プロセスやアウトカムに対する評価が広がるというのは、まさにそういうことで、診療実績に応じて報酬を病院に支払う「P4P(ペイ・フォー・パフォーマンス)」とまではいかなくても、診療結果を病院が開示する「P4R(ペイ・フォー・リポーティング)」が重視されるのではないか。そうなれば、いずれは病院の看板と医療の内容が一致すると思います。
―現在は急性期病院が多過ぎるとお考えですか。
多いか少ないかではなく、必要なのは急性期医療をきちんと提供している病院です。例えば、急性期の脳梗塞に対するt-PA治療などは、高い治療効果が得られる半面、実施する医療機関には高度な専門性と手厚い人員配置が求められます。しかも、患者さまは日中だけでなく夜間、休日も来院するわけですから、24時間365日、t-PA治療が実施できる体制を維持していなくてはならない。こうした役割をきちんと果たしてきた施設と、「平日昼間だけなら対応できる」という施設とでは、費用にも労力にも差があるはずなのに、報酬が変わらないのは、やはりおかしいでしょう。
―地方にある専門病院の将来は安泰でしょうか。
非常に厳しいです。地域性にもよりますが、さまざまな分野を幅広くカバーする中小規模の総合病院は、経営的に厳しい時代だといわれます。大学病院などの大病院が近くにあると、そことの差別化が難しくなる。こうしたリスクを軽減する方策の一つが特定分野への専門特化でしょう。当院の場合、「脳卒中の学術研究機関」として開設され、リスク対策のために専門特化したわけではありませんが、それでも状況が厳しいことには変わりありません。新しく進出したり、機能強化を伴う全面新築を行ったりする大病院が、当院の半径20‐30キロ圏内に相次いでいるからです。
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