【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長 、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
連載第220回で、2019年度から22年度の入院患者数の推移を取り上げ、退院患者数は約12%減少しているが、全身麻酔件数は微増し、救急医療入院以外の予定外入院がおよそ40%減少していることに言及した。軽症な緊急入院が大幅に減少しており、今後も回復は厳しいのではないかと予想される。特に中小病院で患者数の減少が大きいことも指摘した。そのような中で、予定入院が約8割を占める大学病院本院でも退院患者数は減少し、全身麻酔件数も減少しているが、救急車搬送入院は増加していた。大学病院本院が救急に注力していることを意味する可能性があり、地域医療に与える影響は少なくはないだろう。
さらに連載第222回ではがん専門病院の診療実績を取り上げ、病院による違いはあるが全体としては患者数を増加させており、専門病院としての強みを生かし患者を獲得できている。一方で、病床が埋まらないケースでは、化学療法の入院化などの可能性もあり、今後の医療政策に与える影響もあるだろう。
ただ、がん患者の全てが増加しているわけではない。胃や肝臓などは「患者調査」の受療率を見ると長期低落傾向にある一方で、膵臓がんなどは増加していることも指摘した=グラフ1=。
本稿では、戻らない患者数について、どの疾患が減少したのか、そしてこれから増加が期待される疾患は何なのかについてデータを交えて私見を述べる。
表1は、全てのDPC対象病院のMDC別患者数について19年度と22年度を比較したものである。
最も症例数が多い消化器系疾患では10%の減少にとどまり、2番目に多い循環器系疾患でも約9%の減少である。しかし、次に入院患者が3番目に多い呼吸器系では30%を超えて減少している。これらは比較的軽症な救急患者の減少の影響を強く受けている可能性がある。
また、耳鼻咽喉科系や皮膚科系も30%を超えて減少しており、治療法の発達などにより外来化が進んでいることを意味するのかもしれない。件数は多くないが、小児系も大幅に減少しており、これはコロナだけでなく、少子化の影響も受けているのだろう。
精神系疾患は半減している。これは精神病棟の状況を表すものではないため、実態とは乖離している可能性があるものの、精神系疾患の受療率が下がっている傾向とは整合する結果である=グラフ2=。
それに対して、血液系疾患はほぼ横ばいであり、外傷もそれほど減少していない。病院によるが、今後、入院患者の獲得を期待できる診療領域なのかもしれない。
表2は、DPC対象病院で減少した疾患のトップ20であり、
(残り1950字 / 全3049字)
次回配信は7月22日を予定しています
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】