【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
2024年度の介護報酬改定・基準改正のテーマの1つに、「良質な介護サービスの効率的な提供に向けた働きやすい職場づくり」がある。これは社会全体の労働力が不足する中で、介護人材をできる限り確保するとともに、必要とされる人材確保が難しい状況が想定されることを見越した対策も同時に講じようというものだ。
そこで掲げられているテーマは以下の3つ。
・介護職員の処遇改善
・生産性の向上などを通じた働きやすい職場環境づくり
・効率的なサービス提供の推進
これらのうち、生産性向上と効率的なサービス提供の実現とは、介護DXを実現して、より少ない労力で介護業務を完結させることを目指すものである。その実現を図るために省令を改正して、短期入所系サービス・居住系サービス・多機能系サービス・施設系サービスについて横断的に利用者の安全や介護サービスの質の確保、職員の負担軽減に資する方策を検討するための委員会(生産性向上委員会)の設置が義務付けられる。
さらに見守り機器などのテクノロジーを1つ以上導入し、生産性向上ガイドラインの内容に基づいた業務改善を継続的に行うとともに、一定期間ごとに業務改善の取り組みによる効果を示すデータの提供を行うことを評価する「生産性向上推進体制加算」が新設される。また、介護職員等処遇改善加算の職場環境などの要件でも、「生産性向上のための業務改善の取り組み」に新要件が加えられ、複数の取り組みを行うことが求められる。
しかし、これらの対策が講じられたとしても、介護人材不足の解決に向けた抜本的な対策とはならないだろう。社会全体の労働力不足はそれほど深刻で、今回の報酬改定で対策が進められたとしても、要介護者の増加に対応する十分なケアサービスの確保は困難である。つまり、人材不足による“介護崩壊”は必ず訪れる。それを防ぐ有効な手立ては今のところ見つかっていない。
そもそも介護業務には、介護ロボットなどのテクノロジーが人に替わることができない行為が多い。力のいる行為と巧緻性のいる行為をつなげて対応することは、現在のテクノロジーでも難しい。そういった人の手によるケアが不可欠な介護に生産性の向上を求めれば、利用者の希望やニーズに目をつぶって無視することで、手をかけない部分を増やす結果になりかねない。認知症の人が繰り返し同じ訴えをすることに耳と心を傾けて、その心情を受容して落ち着けるように時間を掛ける対応は、「生産性が低い仕事のやり方だ」として切り捨てていこうとする風潮が生まれるだろう。
そんな風にして生産性向上の名の下に、必ず介護サービスの質は低下するのである。生産性向上を介護の現場で声高らかに訴えることは、そうした風潮にいかに目をつぶるかという問題になってくる可能性が高い。介護DXが進められても、人手をかけなくてよい業務は国が考えるほど増えないのである。
残念ながら、介護事業経営者の中にはそうした問題に全く気付いていない人が少なくない。そのため、そうした杞憂も持つことなく、サービスの質の低下による利用者の涙にも気が付かず、強引に国が推し進める「人手をかけないケア=利用者ニーズを切り捨てるケア」に向かって走る危険性が高い。それが杞憂に終わってくれれば良いのだが…。
■通所リハ、事業所規模別の基本報酬見直しの狙い
さて、そのような生産性向上を求める手立てと共に、人材不足の解消が不可能であることを前提として今回、国が取った対策が、通所リハビリテーションにおける大規模事業の誘導策である。現在2区分に分かれている大規模減算について、
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