【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長・教授 京極真】
Q 意見が対立したり、閉塞感から意見が出なくなったりして、会議や委員会でうまく意思決定できなくなっています。パンデミックの影響もあって、先の見通しがつきにくく、価値観がぶつかりやすくなっている一方、消耗感から「話し合っても無駄」という雰囲気があって、それに対する批判も出ている状態にあるため、会議や委員会がさまざまな対立や混乱の場になっています。このような問題にどう対応したらいいでしょうか?
会議や委員会における意思決定のためのフレームを明確化しましょう。意思決定と信念対立は切っても切れない関係ですが、その帰結はネガティブなものと、ポジティブなものがあります。可能な限りポジティブな帰結を引き出すために、意思決定の枠組みの明確化を行い、会議や委員会が対立や混乱の巣にならないように工夫しましょう。
■意思決定と信念対立の関係
意思決定と信念対立は切っても切れない関係です。意思決定の機会は「パンとご飯のどちらにするか」という朝食の場面から、医療安全委員会や感染対策委員会のような重要な仕事の場面まで、至るところに存在しています。何を選択するかは人それぞれであるため、意思決定の機会は同時に、信念対立の機会でもあります。選ぶ物が異なれば、摩擦が生じる可能性があるからです。
意思決定と信念対立の関係は複雑です。理由は、意思決定の質が、対立によって悪化したり、逆に改善したりするからです。一般的に、意思決定で意見が対立すれば、話し合いを避けたり、決断を先延ばしにしたり、選択を誤ったりしがちです。また、ストレス反応が増強しますから、メンタルにも悪影響を与えることになります。
他方、意思決定における意見の対立は、認知処理を活性化するため、より多くの情報の考慮を促進することによって、意思決定の質を改善することがあります。また、そうした意見の対立に立ち向かって解決を試みるようになることもあります。このように、意思決定における信念対立は、相反する結果をもたらす可能性があるのです。
会議や委員会が対立や混乱の場になっているならば、物事には表と裏があると理解しておくとよいです。同じ事象でも異なる帰結があると知っていることは、よりよい帰結に至るための戦略を講じる機会になるからです。
表の帰結は、あなたが今、体験している信念対立による意思決定の質の低下です。これが表の理由は、すでに起こっていることであり、非常に一般的な事象であって、多くの人がそう認識していることだからです。
他方、裏の帰結には、信念対立によって意思決定の質が向上することが挙げられます。これはまだ起こっていないことであり、多くの人が見落としている潜在的な帰結です。このように、同じ事象でも異なる結果になる可能性があると理解しておけば、より良い結果を目がけた戦略を打ち出しやすくなります。
ではどうしたらいいか? 結論を言えば、意思決定のための方向性を示す必要があります。通常、信念対立は負の影響を引き出します。従って、そこから正の影響を強化するのは、決して簡単なことではありません。これまでの積み重ねもありますから、いきなり流れを変えることはできない…と諦めたくなることもあるでしょう。そうした諸事情を前提に、今回お伝えするのは意思決定の方向性を示すという戦略です。
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