【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長・教授 京極真】
Q チーム医療をまとめる立場にいますが、先日スタッフから「うちはチームが機能していません」「皆の考え方がバラバラです」「先生方が何をやっているか分からない」「協力し合う雰囲気じゃない」などと突き上げられました。私にはその実感があまりないため、どうしたものかと困っています。何か助言はありますか?
まずは、ご自身の実感は横に置き、スタッフの話を傾聴してください。その上で、(1)共通目的の特定、(2)役割分担の明確化、(3)情報共有の促進を行いましょう。
■自分の実感はさておき、スタッフの話に耳を傾けましょう
スタッフから「チームが機能していない」と批判されたら、自身の実感はいったん横に置くようにしてください。先行研究では、立場の強い人が問題を過小評価する傾向にあると示唆されています[1]。権力の有無によって、物理的存在の見え方が変わる可能性があることも分かっています[2]。立場が強い人(管理職)と弱い人(一般職)では、心理的体験が異なっているのです。それによって、管理職は一般職に比べて問題を克服するためにリーダーシップを発揮できるようになりますが、他方では、スタッフが体験している問題を同程度の強度で共有できなくなります。なので、スタッフから問題を指摘されたら「実感があまりない」という実感を、いったん保留する必要があるのです。
その上で、スタッフの問題意識に共感するためにしっかり話を聞きましょう。それによって、チームに起こっている課題をより深く理解することができるようになるからです。ところが、これは「言うは易く行うは難し」の典型です。というのも、先行研究が示しているように、立場が強い人は立場が弱い人に比べて共感力が低下している傾向があるからです[3]。つまり、スタッフの話を聞いて、チームが抱える課題を把握しようとしても、なかなか分からないということが起こる可能性があるのです。そうなったら、ますますチームは機能しなくなり、その「ツケ」は最終的に患者へ回ってきます。なので、こういう時はいつにも増してスタッフの話に耳を傾け、問題意識の理解に努めていきましょう。
■共通目標を特定する
その上で、チームを機能させたいならば、チームの共通目標を特定していくようにしてください。共通目標とは、患者を中心とする医師、看護師、薬剤師、作業療法士、言語聴覚士、理学療法士などといった各チームメンバーが協力し合わないと解決できない問題を反映したものです。共通目標としては、例えば「1カ月後にADLが自立した状態で自宅に退院する」などのように具体的なものから、「患者の治療満足度を向上させる」「患者中心の医療を実現する」などのように抽象的なものまであるでしょう。個別の患者のためのチーム医療の共通目標は具体的な方がいいですが、職場におけるチーム医療全体の方向性を定めたいならば抽象的なものでよいです。共通目標の具体性の程度は、何のために共通目標を設定するかによって変わってきます。ともあれ、大切なことは、チームを機能させるために、メンバーが協力しないと解決できない問題を反映した目標を特定することです。
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