【社会医療法人財団董仙会 本部情報部長 山野辺裕二】
前回は次世代医療基盤法(正式名は「医療分野の研究開発に資するための匿名加工医療情報に関する法律」)を取り上げ、その際にデータの質の確保に不安があると書きましたが、今回はその点を掘り下げたいと思います。
表1は、厚生労働省が政府の未来投資会議に提出した資料からの抜粋です。AI(人工知能)やビッグデータの活用がうたわれています。
表1 未来投資会議に厚生労働省が提出した資料
■ビッグデータの定義と電子カルテの現実
そもそもビッグデータとは何でしょうか。定まった定義はないようですが、「従来のデータベースで扱えなかったような多量で多様なデータ」を意味します。そのため「5年前はビッグデータだったものが、現在ではノートパソコンで扱える」といったことも起き、つかみどころがなくなる一因かもしれません。総務省の情報通信白書によると、「多量性」「多種性」「リアルタイム性」が重要なキーワードとなっています。
ちまたで進められているビッグデータ活用の典型例は、TwitterをはじめとしたSNSの投稿分析です。例えば、Twitterで「山手線」を含む投稿が急増すると、「山手線が人身事故で不通になった」ことが分かり、他の情報源より早く事故を察知できるといったことがあります。また、晴れて気温が上がって「ビール」を含む投稿が増えると、ビアガーデンが開店を早めるといった利用をしています。医療分野でも、「インフルエンザ」を含む投稿が増えると、実際にその地域で流行が始まっているといった研究があります。
医療・介護・福祉分野での情報活用を考えるとき、最も障壁だったのは、情報が活用したい形にそろっていないことでした。「情報の標準化」への取り組みは学会を中心に長年取り組まれ、わが国でも医療連携システムの基盤など、かなりの成果は上がっているのですが、医療現場や制度側の問題もあって、閉塞感があるのも確かです。そのような中でビッグデータの活用技術が注目されると、医療情報の利活用に大いに期待したいところです。しかし、そんなにスムーズにいくものでしょうか。
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次回配信は8月25日5:00の予定です
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