【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 准教授 京極真】
Q.多職種連携を強化するために、毎年、院内で研修会を開いています。 |
1)問題意識を共有すること
2)コントロール願望を低減すること
3)機会を作ること
-です。
■熱い人ほど冷静に
「学習が必要な人ほど学習しない」という現象は、そこそこ広く認識されている問題ではないか、と感じています。人間は苦手なことを避けたがるものです。とはいえ、多職種連携の質を高めること自体は妥当な目標なので、多職種連携に熱心に取り組む人は、それに関心がない人たちに共感できず、両者の間に確執が生まれることはありがちです。
でも、「問題がある人に参加してもらいたい!」という前提で参加を促すと反発を招きます。そういうかかわり方は、相手の尊厳をおとしめることがあり、その反動でむしろ研修会から遠ざかっていくからです。多職種連携は確かに必要です。でも、全員が同じレベルでそう感じているわけではありません。「実際の連携で問題を起こす人をどうにかしてやろう」と熱くなりがちな人は、いったん冷静になりましょう。
その上で、具体的にどう対応したらよいか。
■対応1:問題意識の共有
「実際の臨床で連携に問題がある人ほど研修会に参加しない」という事態を克服するためには、問題意識の共有が欠かせません。問題意識とは、多職種連携が必要な理由です。つまり、「『何のために?』そして『なぜ?』多職種連携が必要なのか」を明瞭にし、それをしっかり職員間で共有していくのです。
臨床でおそらく最も共有しやすい理由(問題意識)は、「多職種連携がうまくいくと患者の死亡率の低下に貢献する」というものでしょう。医療は患者の生活の質や死の質の向上、寿命の延伸を目指すものです。多職種連携が患者の死亡率の低下に役立つからという理由は、問題意識の共有に役立つはずです。
皆さんが理由を説明しやすいように、2つのメタ分析を紹介しておきます(メタ分析とは、先行研究を量的に統合したものであり、個別の研究で得られた知見よりも確実性があります)。慢性腎臓病の患者に対する多職種連携の効果を調べたところ、多職種連携で適切に支援された患者とそうでない患者を比較すると、前者の全死因死亡率が低いことが示されました(オッズ比0.62、95%信頼区間:0.44-0.88、p値 = 0.01) 1) 。また、Rapid response system(RPS、急変時の迅速な対応を目的としたシステム)による多職種連携の効果を調べると、適切な多職種連携が入院患者の死亡率を減少させることが分かりました(成人=リスク比0.87、95%信頼区間:0.81-0.95、小児=リスク比0.82、95%信頼区間:0.76-0.89) 2) 。さらにこの研究では、多職種連携で支援すると心肺停止の発生率も減少することが示されました(成人=リスク比0.65、95%信頼区間:0.61-0.70、小児=リスク比0.64、95%信頼区間:0.55-0.74) 2) 。
このように、多職種連携は何のために必要なのかと問われたとき、端的に言えば、「それによって患者の死亡率が低下するから」と答えることができます。多職種連携は単に人間関係を円滑にするだけではなく、患者の寿命の延伸に貢献できる可能性があるのです。
■対応2:コントロール願望の低減
これまで多職種連携の研修会に参加しなかった人が、問題意識を共有した後、自らの意志で参加するようになれば、もう何も問題ありません。院内の多職種連携の質を高める同志として、ともに研鑽を積んでいきましょう。
他方、問題意識の共有後も必要であるにもかかわらず、依然として研修会に参加しない人がいたらどうするか。その場合、「もう共通の問題意識は持っているだろう」という前提の下で、積極的に参加を促せばよいのでしょうか。
結論を言えば、否です。
次回配信は3月17日5:00を予定しています
(残り1759字 / 全3522字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】