【株式会社メディチュア代表取締役 渡辺優】
■地域によっては専門特化も戦略の一つ
前回、全国的な急性期病床の利用率低下を見据えつつ、2025年、40年に向けて病院の経営戦略を立てる重要性をお伝えした。
経営戦略の基本に「選択と集中」がある。例えば「循環器系に特化しよう」「乳がんに注力」といった診療科・疾患単位での特化戦略や、「救急医療をより重視していく」「在宅支援機能に注力しよう」といった役割別での特化戦略が一般的である。
ただ、製造業のように製品をさまざまな地域で販売するのとは異なり、医療は医療機関が所在する地域でサービスが消費される。さらに、その土地で人が暮らす上で絶対に欠かせないという意味で、レジャーなどのサービスとも異なる。医療の「選択と集中」の戦略には、社会的インフラとしての視点が不可欠であり、ある地域のすべての医療機関が循環器専門病院になるようなことは生じてはならない。医療資源が潤沢でない地域は、社会的インフラとしての医療機能を協調的に整備することが最優先になる。
一方、医療資源がある程度潤沢な地域で、患者が集まるエリアも狭いような場合、医療機能の重複は競争を意味する。競合を避け、ある領域で専門特化することも戦略の一つになり得る。
今回は、専門特化することの病院経営への影響について、地域的な制約があることを大前提としつつも、データ分析を交えつつ考えてみる。
まず、専門特化ができなかった事例を紹介する。
都市部のある自治体病院では、「なるべく多くの診療科、医師をそろえ、地域医療の充実を図る」ことをミッションに掲げ、経営努力をしていた。ミッション自体は、特段真新しいものではない。その病院では、新たに眼科の医師を呼ぶため、白内障の手術機器を購入した。おかげで大学から常勤医師を派遣してもらえた。ミッションである「なるべく多くの診療科、医師」の充実が図れたのだ。
問題はその後である。2年も経たないうちに、眼科医が諸事情で引き揚げ、その後に続く医師派遣がなく、眼科は休診となった。電車で十数分の範囲には、十分過ぎるくらい眼科クリニックや眼科を持つ病院があるため、再開への意欲も薄れた。結局、白内障の手術機器が使われず、無駄な投資に終わった。
次回配信は2月1日5:00を予定しています
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