【国立長寿医療研究センター「人生の最終段階における医療体制整備事業」事務局 高梨早苗(看護師)、久保川直美(薬剤師)、西川満則(医師)、三浦久幸(医師)】
最大の意義は、患者の意思尊重であり、このためにも、ファシリテーターを触媒とし、患者・家族と医療ケアチームとの対話のプロセスを支える仕組みが必要だ。
厚生労働省の「人生の最終段階における医療体制整備事業」(2014年度、15年度実施)は、患者の人生の最終段階における医療などについて相談に乗り、必要に応じて関係者の調整を行う相談員を配置したり、困難事例の相談などを行うための委員会の設置を、モデル事業を受託した医療機関を中心に進めるものだ。ここで言う相談員とは、日本版の「アドバンス・ケア・プランニング・ファシリテーター」(以下ACPファシリテーター)とも言える。
日本では年間120万人以上が亡くなる多死社会を迎え、人生の最終段階における医療・ケアについて、早い段階から意思決定支援を行う人材を求める声が高まっている。欧米や豪州、シンガポール等では、既にACPファシリテーター教育プログラムが提供されている。これは世界的な潮流といえる。
今回、少し遅れて日本でも、教育プログラム「Education For Implementing End-of-Life Discussion」(以下E-FIELD)を通じたACPファシリテーターの養成が始まった。
E-FIELDは国立長寿医療研究センターを中心に開発したプログラムで、相談員になる場合、このプログラムを受講し、所属する医療機関に戻ってE-FIELDの伝達研修を行い、仲間をつくる。そして、地域の実情に合わせながらACPを導入し、相談員は患者の意思を酌みながら、表明されたその意思を家族や医療従事者につないでいる。
今回、日本におけるACPファシリテーター育成の先駆けとなる試みとなる同事業の事務局を担当して得た経験を紹介したい。
人生の最終段階における医療体制整備事業(2015年度)
中間報告会資料(2015年度)
ACPが必要な理由
諸外国ではACPを通じて、患者の意思が尊重され、患者家族の満足度が高まり、遺族の心の傷が和らぐといった成果が表れている。先述の人生の最終段階における医療体制整備事業においても、約9割の患者が、ACPファシリテーターが関与することで、自分の意思が尊重されているという実感を持っている。日本では特に、認知症・フレイルによって意思決定能力が低下した人をサポートする重要性が高まっているが、「意思決定能力が低下していてもなお、本人の意思を尊重する」ことがE-FIELDの重要なメッセージとなっている。
ACPは地域包括ケアの土台
患者の意思を尊重するため、ACPファシリテーターに象徴される人材が、E-FIELDプログラムを学び、早い段階からあらゆる局面で仲間とつながることが重要だ。そして、国民を巻き込みながら、ACPを全国で実践し、日常化させる必要がある。
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