【国立研究開発法人国立長寿医療研究センター「スマイルチーム」高梨早苗(看護師)久保川直美(薬剤師)木下かほり(管理栄養士)服部英幸(医師)西川満則(医師)】
EOLケアチームがスタートした背景
年間120万人以上が亡くなる多死社会を迎える中、人生の最終段階における医療・ケアにおいて、がんに限定しない緩和ケアの重要性が高まっている。しかし、日本の現状は諸外国と異なる。少なくとも制度上、緩和ケアはがん患者に限られてきた。そのような時代背景の中、EOLケアチームはスタートした。当時、非がん・高齢者疾患も対象に加えた緩和ケアチームは、全国でも珍しい試みであった。諸外国や日本のがんの緩和ケアチームを参考に、手探りで活動を開始した。
EOLケアチームのアイデンティティー
看護師をリーダーとするEOLケアチームを立ち上げた。チームは、非がん・高齢者疾患(慢性心不全やCOPD)、認知症などによる意思決定能力低下やフレイル、それに起因する苦痛を有する患者・家族を対象に活動を開始した。チームのアイデンティティーとして、意思決定能力が低下していてもなお、「本人の意思を尊重すること」「倫理的な枠組みに沿って支援すること」「情緒的なサポートを重視する」ことを掲げた。それは、現在も受け継がれている。また、患者・家族に安心してもらうためにも、EOLチームは、「スマイルチーム」の通称で活動している。
非がん・高齢者疾患の緩和ケアにも大きなニーズ
チームが対応する非がん患者の比率は、常に4割以上で、多い時には5割を超える。非がん・高齢者疾患の緩和ケアのニーズは大きい。非がんの患者に対しても、身体・精神・社会的苦痛、スピリチュアルペインのすべてに対応することが重要で、このことはがん緩和ケアと変わらない。
しかし、いくつかの違いはある。例えば、非がん・高齢者疾患に比べて、がんの方が身体的苦痛が強いので、身体的苦痛を緩和するためのケアが多くなる傾向が見られる。唯一の例外は、COPDなどに伴う呼吸困難だ。諸外国でも似たような報告があるが、がんに比して、非がん疾患の方が呼吸困難が強く、高頻度であった。非がん疾患の呼吸困難の緩和において、「患者の受け入れられる範囲での標準治療が実施されているか」「輸液量が適切か」「輸液を減量・中止した方が、呼吸困難が和らぐのではないか」「保険適用の問題もあるが、モルヒネによる呼吸困難の緩和が必要ではないか」といったことは、チームでよく議論されてきた内容だ。多くの医療者が想像する以上に、非がん・高齢者疾患の緩和ケアの潜在的なニーズは大きい。このため、非がん疾患の呼吸困難の緩和における適切な対応が広がっていくことが必要だと考えている。
次回配信は2月4日5:00を予定しています
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