【合同会社医療介護連携研究所 久保美穂子】
「医療保険制度」と「介護保険制度」の使い分けをよく問われます。しかし、制度を利用する対象サービスの内容が違いますので比較することは困難ですが、その人の一生をできるだけ健康に過ごしてもらうという目的は一緒であり、そのために医療と介護を社会全体で支え合うために設けられた制度です。特に介護保険制度は介護する家族の「介護疲れ」をも社会全体で支える制度であることを知っておいてもらいたいと思います。在宅医療では、この保険制度をどううまく活用することができるかで、中心となる患者さんやそのご家族の生活の質も大きく変わってきます。
48歳の女性で、乳がんの末期状態のMさんのケースを紹介しながら、制度についてお話を進めていきたいと思います。
MさんはO病院を退院後も同院に通院する予定だったのですが、自宅はO病院からはとても遠く、また病状のため身体に力が入らず、立ったり座ったりなどの動作が自由にできなくなっていたため通院が難しい状態でした。子どもさんたちは独立しており、夫と2人暮らしのため、日中は独居状態になるといった介護力の不安もあり、家族と相談の上で、O病院からも近く、ご主人の職場にも近いご実家で過ごすという選択をされました。退院時は往診と訪問看護の利用のみで、介護保険制度に必要な介護支援専門員(ケアマネジャー、通称ケアマネ)も決まっていない状態でしたので、早々にケアマネの介入を依頼して介護認定の申請をしてもらいました。
ケアマネ介入後、入浴時のいすが低くて立ち上がりに苦労していたのでシャワーチェアを導入。その後、ますます足に力が入らなくなってきたため、介護ベッド・歩行器の導入をしました。これらの介護用品の導入で、それまで動くことがつらかったMさんから笑顔を取り戻すことができました。医療用麻薬(貼付薬、頓服に内服薬)も使用しており、身の回りの介護と点滴による栄養補給など、全身管理のために訪問看護師も毎日2回訪問することになりました。
その後、諸事情のため、ご実家での在宅療養が困難になりました。ご自宅での療養も考えられたのですが、ご実家、ご主人の職場、病院から近いサービス付き高齢者向け住宅に入居されました。毎日ご主人やお子さんたちが付き添われています。現在は、Mさん自身での寝返りも難しくなっているため、褥瘡予防のエアマット、訪問入浴、ヘルパーサービスなども導入して、医療保険制度と介護保険制度を利用して療養生活を送られています(特に訪問入浴は大変気持ちよさそうで、入浴は病状にも精神的にもよく、週3回利用されています)。
次回配信は10月28日5:00を予定しています
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