【社会医療法人製鉄記念八幡病院 医事部医事課/経営管理部経営企画課 秋吉裕美】
製鉄記念八幡病院では、院内のデータコミュニケーションを目的に、院内ニュース「DPC MONTHLY」を毎月発行し、情報を共有化しています。
2回目は、「DPC MONTHLY」を活用したチーム医療の支援と、事務職のチーム医療コーディネーターについて紹介します。
■院内に効果的に周知する方法が分からない
医療技術の進歩や専門分化、高齢患者の増加による疾病の複雑化などに伴い、多職種によるチーム医療がこれまで以上に求められています。しかし、スタッフが懸命に取り組んでいても、組織が大きくなるほど、チームの活動を院内全体に浸透させるのは難しくなります。
チーム医療活動が伸び悩んでいる場合、その要因として、
・メンバーに「自分たちは十分やれている」「頑張っている」という思い込みがある
・他院と実績を比較(ベンチマーキング)した場合、自院がどの程度の水準にあるのかを知らない
・院内全体がチーム医療の活動内容について知っているとは限らない
・チームとの関わりが少ない部門や病棟では協力が得られにくい
・活動を通じてどれだけの効果と成果が得られたのか測定していない
・活動の振り返りや改善を行っていない
・多忙な医療スタッフに代わって、活動を推進する調整役(事務局)がいない などが挙げられます。
このような部門をまたぐ問題は、「院内に効果的に周知する方法が分からない」ことが最大の課題と言えます。
厚生労働省の「チーム医療推進方策検討ワーキンググループ」では、チーム医療を推進する目的を、専門職の積極的な活用や職種間の有機的な連携などによって、医療の質的な改善を図ることと指摘しています。そのためには、①コミュニケーション②情報の共有化③チームマネジメントの3つの視点が重要になるといいます。
「DPC MONTHLY」を通じて、この3つの視点を深めることが可能であり、チーム医療の問題点も解決できるツールになると考えました。
■データでチーム医療を支援するための具体策
「DPC MONTHLY」を思いついたのは、栄養管理部から「特別食のオーダーを増やしたいけれど、院内へ周知する方法が分からない」という相談がきっかけでした。
そこで、チーム医療の活動を院内に広報することから始め、「情報の共有化」「活動のコーディネート」「成果のフィードバック」「目標に向けて改善の流れをつくる」ことを順に行いました。
具体的には、(1)現段階での実績を把握し、自院のポジションを可視化する(2)院内全体に発信し、理解・納得してもらう(3)工夫や改善すべき点を一緒に考える(4)活動の成果を可視化して院内全体に報告する(5)振り返りを行い、目標値を見直す(PDCAサイクルが回るようにする)―という順番で行います。
このようなサイクルをつくろうと、「DPC MONTHLY」を活用しながら、チームだけでなく、院内全体とのデータコミュニケーションを続けています。
チーム医療を推進する上で事務職が果たす役割は何でしょうか。情報収集やデータ分析、広報、部門間の調整を行うほか、チームに動機付けをし、一体感を持たせることではないでしょうか。
チームが活性化すれば、医療の質の向上につながります。そして、チーム医療は診療報酬でも評価されますので、経済効果も生まれます。その成果を院内全体に対し、フィードバックすることで、経営層はもちろん、院内全体からも評価されるでしょう。チームが達成感を得られるほか、さらにモチベーションもアップすると思います。
当院では、経営会議や部長会で四半期ごとに、チーム医療の活動や進捗状況などを報告しています。取り組み開始から1年半が経過し、顕著な成果が表れているため、表彰制度を検討しているところです。また、特定の会議で報告するだけでなく、「DPC MONTHLY」でも定期的に取り上げ、院内に成果を伝えています。
PDCAサイクルが定着し、院内での評価が実感できれば、さらに自発的な行動につながるでしょう。実際に若手のスタッフがQC(品質管理)活動を通じて改善を図ったり、学会で発表したりするなど、各部門やチームがそれぞれ工夫しています。
経営会議・部長会報告用資料
■事務職としてのモチベーションも高められる
チーム医療の活動では、診療の決定権は主治医にあります。そして、主治医の指示により看護師が診療のサポートを、コメディカルはそれぞれの専門分野での医療行為を行います。急性期医療の現場では、在院日数の短縮が求められたり、単科では完結できない複雑な疾患などの対応が増えたりして、医療スタッフは多忙を極めています。
多忙なスタッフに代わって、チームをまとめる上でも事務職の果たす役割が重要になります。
2012年度の診療報酬改定では「糖尿病透析予防指導管理料」が新設されました。その際、糖尿病内科の医師と管理栄養士から「施設基準の取得とチーム活動を進めたい」という相談を受けました。
そこで、糖尿病内科医師、腎臓内科医師、外来師長と主任、日本糖尿病療養士の資格を持った看護師と管理栄養士が集まり、12年8月から検討会を開始しました。ここでは医事課職員として筆者が事務局を務めました。その後、4回の検討を重ねて、13年度から「糖尿病透析予防チーム」がスタートしました。
糖尿病透析予防指導管理料は、指導できる対象医師と看護師、管理栄養士が同一日に指導しなくてはなりません。多忙な職員を調整し、仕組みを構築するのは大変でした。
また、患者さん(や家族)に説明するための①リーフレット②指導テキスト③受診の流れ―についての資料を用意したほか、チームのスタッフが共通で管理する患者ファイルも作成しました。
今でも毎月1回カンファレンスを行っており、事務職は調整・記録・広報を担当しています。チーム発足後も、このカンファレンスで、全量蓄尿検査を開始したり、検査部とのコラボレーションによって対象患者を抽出する仕組みもできました。
病院における事務部門の第一の使命は、医療の仕事を確実に収益につなげることです。事務部門は収支管理や情報収集、分析、データの可視化などによって、収益につながるよう組織を超えて調整すべき立場にあると考えます。医療の質や経営の質の向上には、事務職を含めた多職種のチームが共通の目的意識を持ち、役割を分担しながら、協力体制を組むことが大きな力となるでしょう。
事務職は診療活動におけるリーダーにはなり得ませんが、多職種間のコミュニケーションをとり、情報収集・分析による具体的な目標設定や、企画立案、仕組みづくりを通じて、チーム医療を円滑に進める、いわゆるコーディネーターの役割を担うことができます。
プロフェッショナルと一緒に仕事をすることで、コミュニケーション能力や企画力、問題解決のスキル向上も期待できます。そのためには、日ごろから院内での信頼を得たり、ビジネスセンスを磨くことも必要です。
そして、チーム医療を通じてプロフェッショナル集団をプロデュースできることは、病院事務職としてのモチベーション向上につながります。
糖尿病腎症悪化予防の広報ツール
秋吉裕美 (あきよし・ひろみ)
1984年新日本製鐵(八幡製鐵所入社)附属の八幡製鐵所病院会計担当、92年広報兼務、98年会計管理担当、2007年DPC分析兼務、09年医事課へ異動、13年経営企画課兼務。08年病院広報企画大賞など受賞
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