【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長 、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
大和ハウス工業が4月1日より新卒初任給を25万円から35万円(月)に引き上げるという報道が列島を駆け巡った=表1=。
単純計算すれば最大で年収420万円となり、これ以外に賞与なども支給されるであろうから、かなり高額な年収ということになる。一方で病院の事務職員は最も高い国公立で年収600万円を超えるものの、医療法人では400万円を下回る水準であり、給与面から見た競争力に乏しい=表2=。
夜勤があり、かつ国家資格を有する看護師ですら世間相場からすれば魅力的とは言えないのだろう。もちろん、ベースアップ評価料などを設けて国も積極的な支援をしてきたわけだが、その財源のみでは魅力的な報酬を設定するにはほど遠い。大手企業を中心に大幅な昇給が行われる中で、病院の人財確保は今まで以上に困難になっていくことだろう。
この背景には有効求人倍率が空前の水準に達しようとしており、人財の奪い合いがある。今後も少子・高齢化が進み、働き手の確保は困難になることが予想され、物価が上がれば賃上げも必要になる=グラフ=。しかし、現在赤字で苦しむ病院において賃上げができるかというとそのような状況にはない。
表3は病院の開設主体別の財務状況であり医業収益に占める費用構成としては給与費比率が最も高く、人員適正化の名の下に新規求人を凍結あるいは規模縮小を考えている病院も多い。確かに短期的に見れば、その対応が必要な局面であるが、中長期的には大きな痛手を伴うリスクを抱えている。
実際、病院で活躍している事務職員には就職氷河期世代の人が多い印象があるが、それ以外の世代が育っておらず、特に若手などは不満があればすぐに辞めてしまう。以前は事務職員の求人を出せば相当に高い倍率であった病院であっても今は応募すらないという状況に陥るケースは少なくない。公務員に人気があった少し前と比べ、人の奪い合いである今は安定する公務員でもその魅力に乏しくなっている。となると病院はさらに厳しいことになる。
これに対して医療DXの必要性があらゆるところで叫ばれている。病院の事務職員が行う業務は繰り返しの作業が多いことも事実であり、そのために勤務時間の多くを費やしている。ただ、周囲の病院を見ると決してDX化が加速している印象はない。多くの病院が同じ環境下で仕事をしており、標準化がしやすい業界であるが、各病院の個別性の壁を越えるためには、人財が必要である。DXが進んでいる病院には「できるヒト」が必ずいるわけで、その人が組織を離れると急降下してしまう。異業種も含め「できるヒト」には魅力的な業務と報酬が付いて回る。きのうまで部下だった職員が交渉の相手側に座っていることも日常茶飯事になってきている。
このような中、どうしたら事務職員のモチベーションを維持し、高めることができるのだろうか。
最も大切にすべきことは
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次回配信は4月7日を予定しています
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