30代前半に静岡で在宅クリニックを開業し、今では3つの分院を開設している。“在宅診療は生活をみること”、あるいは“在宅診療は「動く総合病院」であるべき”という独自のコンセプトを掲げ、在宅医療の次世代を担う若きリーダーとして注目される医療法人社団貞栄会の内田貞輔理事長。連載最終回は、医療と介護との円滑なコミュニケーションがもたらす施設職員のスキルアップと波及効果についてお伝えします。
【医療法人社団貞栄会 理事長 内田 貞輔】
■顔と名前が一致する信頼がもたらす効果
私たちが診察や治療にかける時間は、施設入居者の生活から考えれば、ほんの一瞬でしかありません。一方で、入居者の普段の様子を最も知っているのは、長い時間をかけて入居者に寄り添っている介護職の方々です。入居者にとっては、いわば疑似家族のような存在で、私たち医療者にとっても心強い存在です。施設で医療を行うためにはそうした方々との信頼関係が必要になりますが、やはりコミュニケーションがカギとなります。
私のクリニックでも施設側との強力な信頼関係を構築する際に、特に看護師たちが大いに貢献してくれています。施設の方々と積極的にコミュニケーションを図り、その努力が信頼を生み、入居者の健康管理や治療に生かされているのです。食生活や就寝、服薬の様子、あるいは生活リズムの乱れなど、ささいなことであってもそうした情報は入居者の健康状態を維持するうえでとても重要です。食事量が減っていれば老衰の可能性もあり、その後の対処にも大いに役立つのです。
このような信頼関係は、単に医療者が助かるという単純なものではありません。お互いに顔と名前が一致する関係ができていると、介護スタッフが夜間にコールする際にも「いつも来てくれている看護師さんが対応してくれた!」と大きな安心感となり、状況を的確に話してくれるのです。また、交流サイト(SNS)での普段のやりとりであっても、介護スタッフの反応が全く異なってくると、看護師たちは言います。信頼あるコミュニケーションが入居者の健康維持、悪化防止につながり、夜間に介護スタッフが私たちを呼んだことで、「ご家族に感謝されました!」と笑顔で報告してくれたりするのです。顔と名前が一致する信頼関係は、施設の方々のモチベーションアップにもつながることは確かなようです。
■アドバイスの実行はスキルアップと自信につながる
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