【元松阪市民病院 総合企画室 世古口 務】
医療DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、医療分野におけるデジタル変革であり、医療業界や各医療機関が抱えている課題の解決や目標の達成に向けて、最新のITツールやデジタル技術を活用し、変革していくことを指します。医療DXを推進することで、病気の予防・診察・治療といった患者の健康に直接関わる医療行為から、診断書の作成や診療報酬の請求といった医療事務作業、また院内外とのコミュニケーションやコラボレーションが必須の研究や日々の情報交換まで、医療に関わる業務が改善・効率化される、と期待されています。
2017年より厚生労働省がデータヘルス改革を推進しており、新型コロナ禍を契機にこれまで取り組みが遅れていた医療現場・医療サービスにおけるDXに拍車が掛かっています。22年10月11日、首相を本部長とする「医療DX推進本部」の設置を閣議決定し、本腰を入れ始めました。
医療現場におけるDXの考え方の導入は、さまざまな業務の負担軽減、最終的には医療現場における働き方改革につながっていきます。政府の提唱しているような医療DXによる地域医療構想から改革しようとする大掛かりな取り組みには、じっくりと時間をかけて考える必要がありますが、病院内の日常業務に関するDXの考え方、すなわちIT化であれば、病院上層部の考え方だけで、一気に進むものと思います。この点、公立病院では、上層部の決断がほかより遅れています。その理由を考えてみました。
■理由その1 病院長の方針が定まらない
公立病院の院長の中には、医療DX、IT化の必要性を感じていない医師もおり、現代の国の方針に沿った病院経営改善についていけていない所も見られます。
■理由その2 病院内のITリテラシーの不足
多くの病院では、ITツールの導入を進められる専門性の高い人材が不足しているのが現状です。医療については詳しい知識を持つ医師でも、PCの操作すら不慣れな医師も見られ、シンプルなITツールでないと導入が困難なのが現状です。このような傾向は、事務系の医療スタッフが少なく本庁との定期的な異動がある中小規模の公立病院で多く見られます。
■理由その3 予算不足
大掛かりなITシステムの導入には多額のコストが必要となり、公立病院では資金不足のために見送ることもあります。IT化の費用対効果が分かりにくく、ほかの部分に予算の配分が優先されることもあります。
医療におけるDXの最も基本となるのは電子カルテの導入です。厚労省の医療施設調査によれば、病床規模別の電子カルテの普及は年々進み、20年の調査では400床以上では91.2%、200~399床では74.8%ですが、200床未満では、未だに48.8%にとどまっています=表=。離島やへき地など不採算地域での医療を担う中小規模が多い公立病院では大きな課題となっています。
■理由その4 人材不足
医師の働き方改革は、24年にいよいよ本格的に始まります。その前に考えておく必要があるのが、少子・高齢化の進展です。今後、医療を必要とする高齢者は増加しますが、医療現場で働く人材は不足することが予測されています。公立病院だけを見ても最近11年間で病院数の減少は68病院、総病床数は1万9,973床にすぎず、今後病院における人材不足が深刻になることは明白です=グラフ1=。
現在、医師不足が多くの病院で大きな経営課題になっていますが、それ以前に、病院を存続していくためには、医療従事者の合意の上で業務の移管や共同化(タスク・シフト、タスク・シェア)」について真剣に考える必要があります。タスク・シフト、タスク・シェアを推進していくためには医療を支える専門職を十分に確保することが前提条件となる。果たして可能でしょうか?
国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来人口の推計」では、42年まで高齢者の人口が増え続け、15-64歳の生産年齢の人口が徐々に減少していくと予測しています=グラフ2=。今後病院を利用する高齢者は増加するにもかかわらず、そこで働く人材を確保することが困難な状況になることが予測されます。
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次回配信は1月12日5:00を予定しています
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