【株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺優】
■特定入院料ごとの特徴を踏まえた「満床」の難しさ
病床をいかに安定稼働させるか。これは病院経営の基本中の基本である。しかし近年は読めない感染症の動向などによりマネジメントの難易度が高まっている。またコロナ以前より季節変動や大型連休などが病床稼働に影響することは広く認知されている。季節変動などを見るため、特定入院料の1日当たりの算定件数について、月ごとの変動をグラフにした。特定入院料の中でも変動の少ない代表的な入院料は地ケア、回リハ、緩和ケアが挙げられる=グラフ1=。これらの特定入院料は、ほぼぶれていない。もちろん、曜日や病院ごとに見れば、ばらつきが生じるだろう。しかし、全国で見れば、とても安定的な稼働をしている入院料と言える。
一方、季節変動の大きい特定入院料について、縦軸・横軸をグラフ1から変えずにプロットした=グラフ2=。
2021年度、ハイケアユニットでは8月が年平均の1.4倍を超え、11月は0.6倍になった。つまり11月に比べ、8月は2倍以上の稼働になっていた。これはグラフ1とは明らかに異なる推移である。救命救急入院料もハイケアユニットに近い推移をしている。救急搬送患者の占める割合の高いこれらの病床では、救急搬送の季節変動の影響と理解できる。特定集中治療室管理料もハイケアユニットなどと似た変動ではあるものの、その変動幅は小さい。これは周術期の患者の占める割合が高いため、季節変動が少ないものと思われる。
小児入院医療管理料と脳卒中ケアユニット(以下、SCU)はハイケアユニットなどの変動とタイミングが異なる。ハイケアユニットなどは5月・8月・2月などが高く、10月から12月が低いのに対し、小児入院医療管理料は7月・8月が高い。これは夏休みの手術などが影響していることに加え、21年度はRSウイルス感染症の流行が大きく影響しているだろう。また、SCUは11月、12月が高くなっている。
グラフ1に見た安定稼働の入院料と比べ、グラフ2の入院料は全国レベルで見ても大きく変動している。これらの病床を安定稼働させるには、入院基本料の病棟とのベッドコントロールなどをうまく調整する必要がある。なお、安定稼働を目指すにあたり、病院経営ばかり意識することは好ましくない。医療の質や医療安全、医療従事者の働き方の生産性など多面的な判断が必要である。それらを踏まえ、各診療科・部門の協力を仰ぐことが極めて重要である。そのため、この取り組みは、ボトムアップではなく、トップダウンで進めることが重要と考えている。
■SCUの稼働はこの時期がピーク
SCUについて変動を詳しく見ると、11月から1月の3カ月間が年平均値を大きく上回り、5月から9月が少ない=グラフ3=。このような季節変動が生じるのは、SCUは入院できる疾患が脳梗塞、脳出血、くも膜下出血に限定されるため、これらの疾患の特性が反映されているものと思われる。
06年度診療報酬改定で新設されたSCUの届け出施設数と病床数の推移を見た=グラフ4=。その歩みはゆっくりではあるものの、着実に増え続けていることが分かる。
しかし、都道府県別に届け出施設数を見ると、1施設もない県や1施設だけの県が少なくない=グラフ5=。65歳以上の人口当たりSCU病床数で比較しても同様で、都道府県間での差異が大きい=グラフ6=。
なぜSCUのない地域があるのだろうか。おそらく脳血管疾患の患者を救命救急入院料や特定集中治療室管理料、ハイケアユニットなどで診ていて、疾患に限定されてしまうSCUをあえて持つ理由がないためと考えられる。また、SCU自体に診療報酬上の大きな魅力がないことも少なからず影響しているのではないだろうか。しかし、そのような状況においても、グラフ4で見た通り、着実に増えているわけで、SCUの必要性や何らかの戦略上の優位性を見いだしている所があるのだろう。
■3床だけでも届け出すべきなのか
直近のSCUの届け出施設における施設ごとの病床数の分布を見た=グラフ7=。6床の施設が最も多く、次いで12床、9床、3床の順に多く、いずれも3の倍数になっている。これは看護師の配置基準が3対1以上であるため当然の結果と言える。
そして着目すべきは3床の施設がそれなりに多いことである。脳卒中の患者が一定ボリュームいれば、3床でも持つことが合理的と考えているものと思われる。「たった3床だから持たない」ではなく、「わずか3床でも持つ」の他院の戦略は参考にすべき点だろう。
■早期介入の取り組みの評価で有利なSCU
18年度改定でICUの入室患者を対象に新設された早期離床・リハビリテーション加算は、22年度改定でHCUやSCUなどに対象拡大された。また同様に20年度改定で新設されたICU対象の早期栄養介入管理加算も22年度改定でSCUなどに対象拡大された。早期離床・介入の取り組みを強化することの重要性は、ICUやHCU、SCUのみならず急性期病床全般の共通事項であり、個人的には24年度改定でのさらなる評価拡充に期待している。
現状、早期離床・介入の取り組みに対する診療報酬による直接的な評価は、ICUやHCU、SCUに限られている。逆手に取れば、適正な評価を受けるには、ICUやHCU、SCUが有利であると考えられる。早期離床・リハビリテーション加算は疾患別リハの点数の方が有利と考える施設が少なくないためSCUでの届け出割合は1割弱にとどまっているが、早期栄養介入管理加算はSCUの3割以上が届け出を行っている=グラフ8=。
さらに施設ごとの総病床数、SCU病床数別に、早期栄養介入管理加算の届出状況を見た=グラフ9=。SCUが3床しかない施設でも、割合は高くないが早期栄養介入管理加算を届け出ている施設があることが分かる。
対象疾患の限定されるSCUを持つことは、脳卒中専門病院などは別とすると、議論にすら上がっていないかもしれない。しかし、3床で届け出ている施設が少なくないことや早期介入に対する評価などで有利な点を踏まえ、検討してみてもいいだろう。なお、SCUの使い勝手は看護必要度の要件など24年度改定の動向にも左右される。そのため、今後の改定議論の動向にも留意すべきである。
渡辺優(わたなべ・まさる)
1977年生。2000年東北大工学部卒業、02年同大大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了。同年アクセンチュアに入社し、金融機関の業務改善などを担当。その後医療系コンサルティング会社に移り、急性期病院の経営改善に従事する。12年に株式会社メディチュアを設立。医療介護・健康関連の情報提供サービスやアプリケーション開発のほか、医療機関・健康保険組合向けのコンサルティングを手掛ける。
(残り0字 / 全2784字)
次回配信は12月14日5:00を予定しています
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】
【関連キーワード】