【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
厚生労働省は、介護支援専門員(ケアマネジャー)が行うアセスメント項目を示した課題分析標準項目を改正し、併せてQ&Aも発出した。介護支援専門員にとって、寝耳に水ともいえる改正であったかもしれない。恨み節さえ聞こえてきそうだ。しかし、改正に至るには理由がある。課題分析標準項目を改正する委員会の委員という立場から筆者なりの視点で、本稿の前半は改正理由を、後半は多くの方が抱いているであろう運用上の疑問点について概説する。
■なぜ、改正されたのか。理由は2点
一つは旧態依然として、時代にミスマッチなまま使用され続けられてきた項目・内容を今日版へアップデートするためである。課題分析標準項目は、介護保険制度が施行された2000年に作成された。過去に改正されたのは1度だけで「痴ほう」を「認知症」に変更した程度だった。つまり、今回は実質的に初の改正である。それだけにケアマネジャーには「アセスメント項目は不変」という潜在的な意識があっただろう。
ケアマネジメントはニーズオリエンテッドである。的確なニーズ抽出がケアマネジメントの根幹である。反してニーズがズレていれば、ケアの効果、効率性は期待できない。介護保険制度におけるニーズは「生活全般の解決すべき課題」であるから被保険者像、生活状況や社会状況が変化したなら、随時変更されるのが順当だった。もっと早い段階で、数回にわたるマイナーチェンジは必要だったのかもしれないが、現場の混乱を憂慮すればこそ実行は容易ではなかった。
しかし、2000年と現在の相違は看過できないレベルに達していた。具体的には、▽主な原因疾患は脳卒中から認知症へ▽3世代世帯から老々、独居世帯や身寄りのない方の支援へ▽家族=介護者、お嫁さんの介護から、全ての人を尊重するケアラー支援へ▽医療・介護の連携は強化され、重層化した課題に対する他制度協働の支援へ▽固定電話からスマートフォンへ-など。これだけの変化がありながら、「生活全般の解決すべき課題(ニーズ)」を抽出するための情報項目は、2000年のままである。もし市民がこのことを知ったらどう感じるだろうか。ケアマネジャーの気持ちに寄り添えば業務は変わらない方が楽であるし、一見、効率化できるようにみえる。しかし、誰のための介護保険制度であるかという観点に立てば、改正は自明であり、倫理的にも妥当であると考えられた。
二つ目の理由は、
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次回配信は12月ごろを予定しています
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