【元松阪市民病院 総合企画室 世古口務】
公営企業法の一部適用、全部適用の公立病院(全公立病院の約80%)の赤字の原因の1つが、事務職員の本庁との定期的な異動が大きく関係しているように思います。この定期的な異動については、次のような理由があるようです。
1. 癒着防止
これは何年間も同じ部署にいると知らず知らずのうちに業者との癒着が生じることを懸念しての対応のようですが、公務員であっても業者と癒着を招くような人は、どの部署に異動したとしても生じることであり、大きな理由にならないと思います。もちろん、新聞やテレビの最近の報道を見ても、収賄に関与する公務員もいるとは思いますが、これは完全に防止することはできないと思います。
2.人材育成
多くの民間企業では専門性を生かせる部署への異動が一般的ですが、公立病院では、専門性を全く無視した異動が頻繁にみられます。私の経験でも診療情報管理士の資格を有する職員の本庁への異動もありました。本人の希望であればやむを得ないこともあるかと思いますが、本庁に異動しても資格は何の役にも立たず、「宝の持ち腐れ」になってしまいます。資格を持った優秀な職員を有効に活用することが必要です。
3.適性の発見
自治体職員の場合には、通常定年まで異動を繰り返します。もし適性を見極めるという目的であれば、30歳代以上の職員を異動させる必要性は低いと思われます。
公立病院における事務職員の定期的な異動の必要性を改めて考えることが必要です。昭和的な発想からの脱却が必要だと思います。事務職員の定期的な異動について、個人的な考えをまとめました。
1.本庁からの異動によるメリットが明確ではありません。ほかの公的病院、民間病院ではほとんどが院内の異動であり、たとえ部署が変わったとしても医療に携わる点では同じであります。公務員の場合には、全く医療と関係のない所からの異動もあり、本人にとっても配置先の病院にとっても大きな問題であります。昭和的な発想では、「人数だけそろえておけばいい、病院の仕事は誰でもできる」という考えだと思います。公立であっても、地方独立行政法人の病院であれば、異動はほとんどありませんから、組織形態の変更も有効かと思います。地方独立行政法人の病院では、「行政からの統制・関与が減弱し、意思決定が迅速化」「本庁への異動がなく、病院職員のプロパー化、定数に縛られない職員採用が可能」「弾力的・効率的な経営管理が可能」などメリットも多く、 近年、組織形態を変更する病院は増加傾向にあります=資料1=。
さらに、これまで地方独立行政法人に移行した病院では経営改善を達成するケースが多い傾向にあることも事実です=資料2=。
2.本庁から病院勤務経験のない職員が異動してきて、すぐに実績が上がるほど今の病院経営は甘いものではありません(「昭和」の時代であれば、病院経営は誰でもできましたが、最近では医療情勢が大きく状況が変わってきています)。一方、日本赤十字社、厚生連、済生会などの公的病院や医療法人の病院では、大学、専門学校、高校卒業後に奉職し、院内の異動だけであり、医療に対する考え方、取り組み方が公立病院の事務職員とは大きく異なります。
3.公立病院の事務職員は数年後に本庁に戻ることが多いので、能力があり優秀な職員がたとえ本庁から異動しても、本気で勉強、努力する人は少ないように思います。
4.絶えず、本庁、議会、議員への対応に奔走しており、落ち着いて病院運営・経営のことを考える時間的な余裕がありません。近年、議員も昔のように医療に詳しい専門的な知識のある人が少なくなっており、議員からの基本的な質問に対しても丁寧に答える必要があり、腰を落ち着けて仕事ができません。このような議会が、通常年4回も開催されるので(このほかに臨時議会も開催)、公立病院の事務職員は、その対応に奔走し、そのほかの組織母体の事務職員とは大きく異なります。
では、現状でどうすればいいのか考えてみました。
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次回配信は7月7日5:00を予定しています
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