介護事業者の倒産が2022年に過去最高(143件=東京商工リサーチ調べ)を記録した。休廃業・解散件数もこれまでで最も高い水準(495件=同)に。23年も増勢が懸念されている。こうした状況を、M&Aやコンサルティング事業の介護業界担当者はどう見ているのか。そして今後の展望は―。
■介護事業の責任負担大きく、異業種の動きは二分
日本M&Aセンター 医療介護支援部チーフ 今市遼佑氏
ここ数年コロナ禍で介護事業者のM&Aは小康状態でしたが、昨年末から今年にかけて、「ソラスト」や「リビングプラットフォーム」などの上場企業が買い手となるM&A案件が、ちらほら出てきています。
相談に訪れる売り手の理由として大きく3つあります。1つは後継者問題です。介護保険制度開始から20年経ちました。立ち上げ当時30-40歳代であった経営者も50-60歳代になり、次のステージを考えるタイミングとして捉えています。
2つ目は経営体制の問題です。従業員の雇用を守り、経営を安定させるためには、ある程度の規模感が必要です。規模があるほうが、福利厚生制度は導入しやすいし、従業員の休暇が取りやすくなったりします。ただ、事業承継にも絡む話ですが、規模を拡大するには、右腕、左腕のような存在を育てていく必要があります。
一人でトップマネジメントできる数には限界があります。デイサービスや小規模多機能型居宅介護など5-7件の在宅系施設を、経営者がトップダウンで運営している事業者からの相談が多くあります。
3つ目は、昨今の物価や人件費の高騰を理由にしたものです。今後、経営が厳しくなると考える施設経営者も少なくありません。これらの問題を複数抱えながら、相談に来る介護事業者が目に付きます。
買い手にも変化が出ています。以前は、さまざまな異業種参入が話題に上がりましたが、その中で、今買い手の中心となっているのは介護を事業の柱として拡大する企業です。例えば、ALSOKやSOMPOホールディングス、ソラストなどです。かつて介護事業に参入した異業種の中でも、積極的に介護事業を展開する企業と、そうでない所に二分されてきています。
今後、介護事業者の責任は重くなります。年齢構成上、以前のような軽度の介護サービス利用者から重度者対応に移らざるを得なくなります。看取りも増えてくるでしょう。社会的責任が、これまで以上に求められます。企業として、介護事業をしっかりコミットしていなければ、社会的責任に応えることは難しくなります。
介護業界は、保険制度開始から考えると歴史としては、まだ20年程度です。ともするとIT産業よりも新しいビジネスですので、事業者の統合や倒産が、まだまだ出てくると思います。そうした経験を通じて、より経営が洗練されていく業界ではないでしょうか。
■新型コロナ経験し、事業継続性への意識高まる
株式会社タナベコンサルティング M&Aアライアンスコンサルティング事業部 M&A本部
チーフコンサルタント 金村修煥氏
倒産件数にも表れているように、事業存続がそもそも厳しいところの手前での相談が一昨年ぐらいから増えています。特にデイサービスの事業者からが目立ちます。
新型コロナウイルス感染症の制限緩和から経済活動が戻りつつありますが、全てのデイサービスがコロナ前の水準に戻るのは難しいのではないでしょうか。
そもそもデイサービスは、有料老人ホームなどと比べて参入障壁が低い分、事業者数の母数が多いわけです。その分、職員の確保が他の介護事業に比べ、より難しいという課題があります。われわれは大阪を拠点に展開していますが、大阪でも少し中心部から外れると人材確保が難しくなったりしますので、相談の増加傾向は続くと思います。
もともと、この業種は事業者規模にかかわらず人が集まりにくかったのですが、特にコロナ以降は中小事業者での人材確保が厳しくなっています。以前は、人材不足でも何とかやりくりしてきた中小事業者も多かったのですが、コロナ禍で経営者の意識に変化も出てきています。コロナ禍で、さまざまな事業活動が制限されました。例えば、職員の中に感染者との接触者がいれば営業できないという事がありました。ギリギリの人数で運営している所が大半ですので、事業継続計画(BCP)を考えると、人員に余裕がないと、この先、運営ができないという意識を持つ経営者が増えています。
現状は業績が安定していても、将来的な事業継続性を踏まえ、例えば大手の傘下に加わったり、連携したりするという動きが今後活発になる可能性もあると考えています。
また、今後の介護市場を考えると、保険外サービスをどう展開するかは、安定経営にとって大きなポイントになります。今の人口動態を見ても、介護保険のサービスだけでは早晩、厳しい経営環境になるのではないでしょうか。
給食事業は一例です。介護職の育成などのスクール事業もあるでしょう。スクール事業を展開すれば、人材不足の緩和にもつなげられます。
こうした保険外サービスも、中小事業者が自前で行うよりは、他の事業者と連携し、トライアルアンドエラーを重ねながら、良質な保険外サービスにつなげたほうがいいかもしれません。
■楽観できない24年度報酬改定、将来の展望図描いて
CBパートナーズ 医療・介護・福祉事業部 西日本グループ課長 小村幸男氏
コロナ禍で、特に事業者数の多いデイサービスが経営に大きな影響を受けましたが、分析すると、2つの大きな傾向が見えてきます。一番打撃を受けていたのは、デイサービスの中でも、スポーツジム感覚のサービスを提供し、介護予防をウリに展開してきた所です。
一方、入浴をサービスで強調したり、重度の利用者を受け入れたりしていた所は、コロナ禍の中でも、業績を大きく落としていないですね。むしろ収入がプラスになった事業所もあるという印象です。もちろん、クラスターにより事業所を閉鎖した所は除きますが。
「不要不急」というワードが、当時頻繁に使われましたが、デイサービスでも利用者の意識に、不要不急の判断があったという事をうかがわせる傾向ではないでしょうか。
足元で言えば、気になるのが融資返済です。コロナ禍で、福祉医療機構(WAM)から貸し付けを受けた介護事業者も多く、今後、資金繰りから経営悪化に陥る事業者が多数出るのではないかと懸念しています。
後継者不在により相談に来る介護事業を運営する経営者はコロナ禍前からいましたが、コロナ禍以降、目に付き始めたのが「子どもなどに後を継がせたくない」という理由による後継者不在です。介護保険制度開始から20年が過ぎ、事業を始めた当初からの、介護報酬改定やコロナを始めとした社会環境の変化などにより、今後を見通せず、継がせたくないというケースが目に付きます。経営自体は大変うまくいっている状態でも、そういう判断をされる方が増えてきています。
もちろん、今後の展望図を描く事業者も少なくありません。例えば、介護の事業者が、医療事業の承継や、訪問診療への取り組みを行っているケースがあります。介護保険に加えて、医療保険も収入の柱にし、経営の安定化を図るという戦略です。多角化をどう進めるのか、今後の重要なポイントになります。
コロナ禍の約3年間、国は対策に巨額のお金を投入してきました。これからは、その投入したお金を、どう取り戻すかが国の関心事ではないでしょうか。そうすると、まずは、どの予算を削るのかという話になり、社会保険、その中でも介護保険はそのターゲットにしやすいテーマだと思います。24年度に介護報酬の改定がありますが、その報酬への締め付けは必然ではないかと考えています。
介護業界の大規模化を推進する意見も財務省などから挙がってきています。大きな枠組みで見ると、今後、事業を売るか、他の事業者から買収して規模を拡大するか―。この2つのいずれかの選択を迫られる日が、近い将来、各介護事業者に訪れると考えています。
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