【千葉⼤学医学部附属病院 副病院⻑、病院経営管理学研究センター⻑、ちば医経塾塾⻑ 井上貴裕】
前稿でも取り上げたようにICUにおける看護師の重点配置は医療の質と経済性に大きな影響を及ぼす。ただ、これは集中治療に限ったことではなく、一般病棟でも同様の議論が当てはまる。何しろ、病院では看護師数が他職種に比べて圧倒的に多いという現実がある。看護師が不足すれば、新入院患者を受け入れることができず、適切な入院料を届け出ることも不可能となる。一方で、患者数に対して過剰に配置すれば不採算の温床となるリスクもはらんでいる。このバランスを取ることが病院経営にとって重要であり、それを実現するのは経営者の手腕の1つである。
グラフ1は、特定機能病院7対1病棟の病床数と常勤換算看護師数を見たものであり、有意に正の相関があるものの、病院によりバラつきがあることも分かる。特定機能病院のような高度急性期を提供する病院であり、かつICU等を除いた7対1病棟を前提とした病棟であっても配置数が異なるわけだ。ただ、患者需要が多ければ、看護師が必要になるのは当然であり、グラフ2は横軸に常勤換算看護師数を、縦軸に在棟患者延べ数を取ったものであり、同じ高度急性期である7対1病棟でもバリエーションがあることが分かる。
グラフ1
令和2年度病床機能報告データを基に作成
グラフ2
令和2年度病床機能報告データを基に作成
2年に一度の診療報酬改定ごとに多くの病院の看護部から病棟別の7対1配置になるのかと私は質問を受ける。おそらく病床機能報告が病棟別で「急性期」や「回復期」の届出をしていることが影響しているのだろう。ただ、病棟別の7対1や10対1配置が診療報酬として採用されるのは噂話であり、現状ではその可能性は低い。仮に病棟別に7対1を認めるとすれば、10対1などの病院が「この病棟は7対1にしてほしい」と手を挙げ、現状の7対1病棟はさらに増加することだろう。もちろん既存の7対1病院は基準を満たすような病棟再編を行うだろう。それでは、国が思い描いた姿とは乖離し、実態にはそぐわない。だとすると現行制度でも認められている傾斜配置をいかに行うのかが病院としては現実的な選択肢となる。
ただ、私が関係している病院で大胆な傾斜配置を行う病院はほとんどない。「ほぼできない」のかもしれない。うちの病棟は7対1だけれど、あちらは13対1のような濃淡を付けられるかというとそれでは不公平が生じてしまう。一方で、「重症度、医療・看護必要度」については病棟で大きく異なっており、「看護必要度が高いうちの病棟の看護師配置が足りない」という声も聞こえてくる(評価基準が適切かという課題も内在する)。結局、何をもって公平で平等かを判断することは難しく、無難に各病棟同程度の看護師が配置されている。
そこで、本稿では高度急性期病院の代表である特定機能病院を題材に病棟別の看護師傾斜配置が進んでいるのかを2020年度病床機能報告データを基に明らかにし、今後の高度急性期病院における看護師配置の在り方について考えていく。なお、現状では21年度の病床機能報告データが開示されているが、コロナの影響をより強く受けていることを考慮し、20年度データで議論を進めていく。
(残り3004字 / 全4356字)
次回配信は7月25日5:00を予定しています
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】