「心電図モニターの管理」が必要な患者さんに急性期病院はこれからどう対応すべきなのか? 「主治医機能」や「かかりつけ医機能」と「かかりつけ医」の違いとは? 宇都宮啓氏(写真右)と井上貴裕・ちば医経塾塾長のシリーズ対談。最終回では、医療現場が国の施策に振り回されないための心構えに踏み込んだ。【編集/兼松昭夫】
■新点数の基準は「厳しめに設定」が基本
井上 新しい診療報酬を作る際、どの程度の医療機関がそれを届け出るかの予測は本当に当たるものでしょうか。
宇都宮 少なくとも向こう2年間を見越してシミュレーションしているはずです。ただ、2006年度(平成18年度)の診療報酬改定で7対1入院基本料を新設した時は予想外だったのでしょう。点数が高い報酬を作ると、どの医療機関もそれを届け出ようとします。いったん届け出が殺到してしまったら、後からそれを減らすのは簡単ではありません。だから、基準を低くしては絶対に駄目です。
厳しめの基準を設定して対応できる医療機関がどれだけあるのかを見極めて、それ以降の対応を決めるのが基本だと思います。
井上 7対1入院基本料は当初、2万床ほどの届け出を想定していたといわれていますが、ピーク時の14年(平成26年)7月には38.4万床に急増しました。厚生労働省は当時、本当に2万床に収まると考えていたのでしょうか。
宇都宮 それは分かりません。診療報酬改定の際、当時は基本的に「社会医療診療行為別調査」を活用していましたが、この頃は共済組合がまだ対象外で、しかも保険医療機関を一定の割合で抽出した後、対象機関のレセプトをさらに抽出するという2段階抽出調査でした。15年(平成27年)からは、共済組合などを含めてナショナルデータベース(NDB)に蓄積された全てのレセプトを用いる「社会医療診療行為別統計」になりました。参考データの正確性に限界があったにしろ、当時は、まさかあんなに届け出があるとは予想できなかったのかもしれません。
井上 今回の改定では、「一般病棟用重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)を見直してA項目の「心電図モニターの管理」を削除することが公益委員の裁定で決まりました。ただ、「7対1」に相当する急性期一般入院料1の届け出はそれほど減らない気がします。
同じA項目の「点滴ライン同時3本以上の管理」が「注射薬剤3種類以上の管理」に置き換わりました=表=。これで拾われるケースもあるでしょう。
表 一般病棟用の「重症度、医療・看護必要度」(A項目)の見直し(2022年度改定)
出典:厚生労働省の資料を参考に編集部で作成
宇都宮 そうかもしれません。厚労省は「心電図モニターの管理」を削除しましたが、看護必要度の評価で「急性期」に該当する患者さんの受け入れ割合の基準はほとんどの入院料で緩和しました。急性期一般入院料1から脱落し過ぎないようにむしろ調整したんだろうと思います。そこを厳しくするのは24年度(令和6年度)の同時改定を担当する医療課長かもしれません。
井上 A項目から「心電図モニターの管理」が削除されたことで、高齢者の心不全患者などが影響を受けると予想されます。「高齢者の救急への対応は急性期一般入院料1の病院の役割ではない」という国のメッセージだと受け止めています。
宇都宮 それは違うと思います。
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