【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
団塊の世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて、カウントダウンが始まっている。一方、コロナ禍で病院が果たした役割は極めて大きく、医療に対する国民からの期待も増大している。このような中で、地域医療構想をどのように推進していくかは、今後の医療政策の重要論点である。22年度診療報酬改定では、急性期入院医療の「重症度、医療・看護必要度」の見直しについて議論が進行中であるが、経過措置の度重なる延長やコロナ禍である現状を踏まえると、大きな変更をすることは難しいだろう。
もちろん、地域医療構想と診療報酬は別物であるから、診療報酬改定が地域医療構想を誘導することにはならない。しかしながら、7対1看護師配置である急性期一般入院料1の適正化と、地域医療構想で過剰とされる急性期機能は重複するわけで、急性期に何を求めるかという議論はいずれにおいても不可欠だろう。
連載第146回で取り上げたが、我が国の急性期病床は諸外国に比べて極めて充実しているが、それでもコロナ病床の捻出が難しかったことは記憶に新しい。これは、中小病院が多くを占める我が国の医療の特性が関係しており、抜本的かつ本質的に解決しなければならない課題だ。医療資源の集約が果たせず、分散した状態であることは、民間を中心に発展してきた我が国の医療の在り方が問われているのかもしれない。
開設主体や規模の大小で病院を評価することは適切ではないし、むしろこれまで活躍してきた民間中小病院というプレイヤーには感謝しなければならない。直ちに医療提供体制を改めることは容易ではないものの、開設主体の枠を超えた今後のグランドデザインについて、国が何らか示すべきだろう。
本稿では、病床規模と機能に着目し、急性期入院医療のこれからについて、いま一度考えていく。
グラフ1は100床当たりの診療実績を見たものである。分母の病床数はDPC算定病床(急性期病床)を用いている。病床規模と診療実績は全体的に相関しており、特に全身麻酔、紹介あり入院、化学療法件数は大病院ほど多い傾向がある一方で、救急車搬送入院は400床台がピークで500床以上になると予定入院患者が多くなり、中小病院も積極的な受け入れをしている。これは地域包括ケア病棟を有する病院も含めたデータであり、地域包括ケア病棟を有し院内転棟する患者については退院患者数にカウントされない。ここから地域包括ケア病棟を有する病院を除いて集計したものがグラフ2になるが、グラフ1と傾向は同じであり、大病院ほど急性期らしい医療提供を行っていることになる。
連載第149回でも触れたが、結局、大病院ほど病床の回転が優れており、効率的な病床利用が行えている=グラフ3=。急性期病床300床が1つの分岐点になりそうだ。入院患者の受け入れについては、大病院が有利であり、中小病院は救急への依存度が高いため、医療需要にも季節変動があるなどの影響から全体として見れば急性期病床が過剰であることを示唆しているのだろう。
とはいってもグラフ1-3は病床規模別の平均を見たものであり、さまざまな医療機関が存在する。グラフ4は、横軸にDPC算定病床数を、縦軸に全身麻酔件数を取ったものであり、突出して全身麻酔が多い病院もあれば、その逆も存在する。近似曲線の上に位置する病院は、整形外科などの突出した領域を持つ専門病院、あるいは麻酔科が充実していて手術室を効率的に利用するハイパフォーマンス病院である。
一方で、下に位置する病院は診療科の構成もあるのだろうし、地域差が影響しているかもしれない=グラフ5=。また、病床数が多過ぎる可能性もある。ただし、グラフ5は医療機関の所在地別による集計であるため、患者の流出入も一部関係しているだろう。
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次回配信は10月25日5:00を予定しています
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