【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
2014年度診療報酬改定で評価された地域包括ケア病棟が、急速な勢いで増加している。地域包括ケアシステムにおいて重要な役割を担う当該病棟が増加するのは望ましいことであり、さらに地域医療構想で不足するとされる回復期機能とも整合性がある点からも、この増加は歓迎すべきだと言えるのかもしれない。
ただ、連載第144回で言及したように、地域包括ケア病棟の設置状況には地域差があり、このことが医療提供体制に与える影響は無視できない=グラフ1=。もちろん22年度診療報酬改定でも、当該病棟の役割をどのように考え、それを評価に反映していくかは重要論点の1つに挙げられるだろう。
そこで本稿では、地域包括ケア病棟の利用実態について、コロナ前であり、かつ診療報酬改定前でその利用実態を最も示すと考えられる、19年度の病床機能報告データを中心に改めて明らかにし、医療政策として当該病棟をどう考えるかの問題提起を行うとともに、有効活用のための視点を提供していく。
グラフ2は、横軸に一般病床の平均在院日数を、縦軸に人口10万人当たり1日当たり平均在院患者数を取り、都道府県別に集計したものである。ここから、在院日数が長い地域ほど、入院患者数が多いことが分かる。これは、患者構成の違いではなく、医療提供体制が影響しているというのが一般的な解釈であろう。右上の地域は急性期病床数が多いため、稼働率を優先する病院が多いのかもしれない。
では、この一般病床の平均在院日数と75歳以上人口10万人当たりの地域包括ケア病床数を見ると、両者は有意に正の相関をしている=グラフ3=。これは、平均在院日数が長い地域の病院が、その対策として地域包括ケア病棟を積極的に設置しているのかもしれないし、あるいは病床数が過剰な地域では、地域包括ケア病棟を設置し、できるだけ稼働率を維持することに努めている可能性もある。もちろん、前述したように、地域包括ケア病棟はさらに増加させることが一般的には期待されているのであろうから、病院のこのような取り組みを否定するものではない。
ただ、グラフ4を見ると、75歳以上人口10万人当たり地域包括ケア病床が多い地域では、1人当たり実績医療費が高い傾向がある。この解釈もさまざまに可能であるが、地域包括ケア病棟と医療費には何らかの関係性があることを示唆しているのかもしれないし、限られた国民医療費の有効活用という点において地域包括ケア病棟をどう考えるかは、改めて重要な論点である。なお、地域包括ケア病棟の多いことが、医療費増につながっているわけではなく、交絡因子が存在することには留意されたい。
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次回配信は10月11日5:00を予定しています
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