【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長・教授 京極真】
Q 管理職という立場上、さまざまな対立を仲裁する必要がありますが、たいていの場合、私自身の権限を生かして部下を従わせることになります。しかし、意見が合わないからといって、相手に服従を強いるようなやり方でよいのだろうか…というジレンマを感じています。部下と意見が対立した時に、権力を上手に使うコツみたいなものがあれば知りたいです。
権力を上手に使うことは難しいですが、まずは権力のタイプを理解しましょう。他者に服従を強いることばかりが権力ではありません。上司と部下でパワーを共有し、共に問題解決に当たることも重要な方法なのです。
■信念対立と権力
とても重要な疑問だと思います。ぼくの経験上、権力は信念対立への対処を難しくし、悪化させることになる大きな要因です。なので、管理職にとって、権力を上手に使うことは喫緊の課題です。
まず信念対立とは、意見の不一致や価値観の食い違いによって生じる確執です。例えば、上司と部下の間で意見が合わない時や、同僚との間で価値観が衝突する時は、信念対立が発生していることになります。その意味において、上記のQはまさしく信念対立状態を反映していると言えます。
他方、権力とは一般に、他者を服従させたり、支配したりする能力です。例えば、上司と部下の間で意見が合わない時に、上司がその権限を使って自身の意見を押し通す場合、権力を使っていることになります。後で詳しく述べますが、このような権力は一般的に認識されているパワー(power)の表現の1つとなります。
信念対立と権力が関連する時は、そうでない場合に比べて率直な話し合いがし難くなります。例えば、対等な立場であれば「率直に話し合え」と言えば、割とすんなり合意形成できるケースでも、権力の不均衡を背景に意見が対立すると、途端に支配的になったり、服従的になったりして禍根を残す可能性があるからです。権力を使うこと自体は問題ではありません。しかしこれは、適切に使わないと個人や組織を傷つけることになります。
では、どうしたら権力を上手に使える可能性が芽生えるでしょうか。非常に難しい問題なので簡単ではないですが、今回お伝えしたいのは、オルタナティブな権力の在り方を理解することの重要性です。
■オルタナティブな権力の在り方を理解する
上述したように、最も一般的な権力の捉え方は、他者を服従させ、支配する能力です。これは、組織の正当なルールに沿って付与されることもあれば、カリスマ性や高度な専門性、報酬、罰、年齢、社会的つながりなどによっても、得られることがあります。今回のQで言うと、上司と部下という関係なので、組織の正当なルールによるものです。
また立場上、昇進などの利益を与えたり、人事などで不利益を与えたりする可能性があるならば、報酬や罰によっても権力が担保されていることになります。権力の基盤は複数あり、それらが組み合わさることも珍しくないですが、いずれにおいても一般的な権力の認識を強化する方向に作用しがちです。
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