【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
厚生労働省老健局認知症施策・地域介護推進課より23日付で、介護保険最新情報Vol.992が発出された。タイトルは、適切なケアマネジメント手法の普及推進に向けた調査研究事業の「手引き」について(情報提供)【その1】である。適切なケアマネジメント手法については、本連載においても以前、「ケアマネジメント標準化」と表して何度か触れたことがある。
適切なケアマネジメント手法とは何か? 一定の状態に対して行うケアマネジメントの方針や想定されるケア内容などを示した、他職種とも共有可能な準ガイドラインと言える。公的な保険である以上、本来なら介護保険制度の施行前に標準ケアとその判断基準は示される必要があった。とはいえ制度施行前の段階では、高齢者介護の知見が十分に蓄積されていなかった。だからケアプランは、利用者の要望と、専門職の経験を頼りに作成されてきた。そこには科学的妥当性の検証は欠如している。成熟した一専門職の判断なら、一定の範囲に集約されるはずだ。ところが、こうしたことに疑問を抱くケアマネジメントの実践者や研究者は少なかった。
そのことを早期に指摘していたのは、介護保険制度に携わった厚労省のあるキャリア官僚である。しかし20年以上、科学的妥当性が検証されないケアが続いてきた。今般発出された「適切なケアマネジメント手法」は、今後のケアマネジメントのよりどころとなり、ひいては多職種連携の共通言語ともなり得る。いずれ、高齢者介護の歴史に刻まれる存在になるかもしれない。
厚労省が適切なケアマネジメント手法に着手したのは、2016年4月だった。当時、私は同課の介護支援専門官として着任2週目だった。局の幹部から、「専門官、ケアプランの標準化は可能だと思う?」と問われた。その瞬間、「この回答次第で今後の日本のケアマネジメントを左右するかもしれない」という、緊張と覚悟のようなものが入り交じった感情が湧いた。同時に思い浮かんだのは、過去の社会保障審議会での委員の発言と、140名のケアマネジャーを統括していた自分の過去の経験である。
筆者の回答はこうだ。「ケアプランは、社会保障審議会の議論においても過去より“オーダーメイド”と言われてきました。ですから標準化は、過去の経緯に矛盾します。一方で、私の経験では、一定の条件に限定したケアマネジメントの標準化なら、できる可能性があると考えます」であった。つまり、ケアプラン(人の生活)は標準化できないが、利用者のある限定した状態に対してのみ、専門職の思考と行動をケアマネジメント・プロセスに沿って標準化することは、一定の可能性がある、ということである。
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