【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
3度目の緊急事態宣言が沖縄を除き解除される。医療提供体制の逼迫状況はやや緩和されてきた印象だ。もちろんこの後、東京オリンピック・パラリンピックが控えており、第5波への備えを継続しなければならないし、医療関係者は緊張感を緩めることはできない。ただ、ワクチン接種も加速化しており、やがてどこかのタイミングで新型コロナウイルスは収束するだろう。そのアフターコロナに備えて、病院経営者は今のコロナ病床をどう再開するかを考えないといけない。
本稿では、都道府県別、病床規模別等の1床1月当たりの退院患者数である病床の回転状況に着目し、急性期病床の過剰状況を明らかにした上で、今後の選択肢について提案する。
年度内、少なくとも上半期はコロナ病床確保の要請がありそうだし、それに伴い空床確保の補助金も引き続き期待できそうだ。ただ、次のステージを常に考え、未来の景色に思いを馳せ、それに合わせたシナリオを描くことを忘れてはならない。実際、ちょうど今頃は各病院で、来年度の新卒看護師の採用人数を決める時期であり、一般病棟として再開しようにも看護師がいなければその計画は絵に描いた餅である。また、コロナ病棟をつくるために、病棟閉鎖などをした病院も多いが、それでも何とかやってこれたという現実もある。確かにビフォーコロナからすれば、患者数は少ないだろうと推測するが、2020年4月・5月ほどの減少幅ではないだろう。もしかしたら、まだ以前の状態には完全には戻らないのかもしれない。
グラフ1は、都道府県別に1床1月当たりの退院患者数を見たものであり、“1床”は急性期病床であるDPC算定病床を用いている。基となるデータにDPC算定病床と表記はあるが、出来高病院の急性期病床も含まれている。つまり、急性期病床当たりでどれだけの退院患者を診ているかという指標であり、病床の回転状況を表している。分子には自費の患者が含まれないことから産科の正常分娩などが除外されるので、院内で集計した実態よりも少し低い数値になる。さらに、院内転棟した患者も除外されている。
特に、地域包括ケア病棟は院内転棟の割合が高いため、これを有する病院を除外したのがグラフ1で右側に並べた緑色になる。これを散布図にしたものがグラフ2である。
沖縄県の病床の回転が良いのは、アクティビティーの高い急性期病院が多数存在し、かつ中核病院の病床が小さめであることが関係している=表1=。一方で、青森県、秋田県、高知県などは急性期病床が過剰であり、病床数に対して新入院患者が追い付かない状況にあるものと考えられる。
では、比較的良く見えるこの約2回転という数値をどう見るかだが、急性期病院としてはクリアすべき数値であると私は考えている。グラフ3は、DPC対象病院の平均在院日数について医療機関群別に見たもので、19年度ではおよそ12日程度になっている。資料は私が講演などで長く用いてきたスライドだが、この(1)で平均在院日数が12日の場合、仮に新入院患者数が病床数の2倍になると病床稼働率は80%になるという試算を示している。つまり、急性期病院としては決して達成が難しいものでなく、さらなる高みを目指すべきである。
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次回配信は7月5日5:00を予定しています
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