新型コロナウイルスによる雇用悪化から、異業種からの人材を積極採用する介護事業所が増えている。慢性的な人材不足の中、コロナをきっかけに介護業界へ目を向ける契機になればと期待したが、事業所からは「思ったより集まらない」との声が上がる。
一方、ある事業所は「この1年間で既存職員の離職率は大きく低下した」と打ち明ける。背景として、コロナ対策など職員への手厚いサポートが職員満足度を押し上げたとみている。【井上千子】
■コロナ禍でも平時と変わらず…「介護を選択肢に入れてくれない」
「普段介護職を選択肢に入れない人にも、コロナをきっかけに目を向けてくれればいいな、というのがこの施策の肝だった」。
学研ココファンの木村祐介事業本部長は、コロナ禍の雇用悪化対応策として打ち出した異業種からの求職者の積極採用についてこう述べる。
2020年6月、同社はグループ全体で1000人の受け入れを開始。今年2月時点での応募者は前年同期比の約2-3割増となったものの、40-50代が中心で20-30代の若手の応募は伸び悩んだ。
木村本部長は「40-50代のミドル層にとっては、正社員という安定性や一定の収入から現実感のある転職先として候補に挙がったが、普段介護を選択肢に入れない若年層はコロナ禍でも平時と変わらずハードルが高いまま」と話す。
同じく20年6月より、居酒屋チェーンの社員や劇団員などの出向を積極的に受け入れる社会福祉法人伸こう福祉会の勘里絵利奈さんも「コロナで異業種からの応募が増えたという印象はない」と打ち明ける。
しかし、それでも収穫があったと捉える。第1期には異業種からの出向者約20人が特別養護老人ホームやグループホームで介助サポートに従事したが、そのうち2人が出向元を退職し、正式に伸こう福祉会へ入職した。
勘里さんは「まさか2人も入職してくれると思わなかった。『やった』という感じ」と言い、「何がきっかけになるかは分からない。一度は敷居を下げて異業種の方に入ってもらってよかった」と笑顔を見せる。
■既存の介護職員の離職率は低下傾向に
一方で、この1年間でもともと働いていた介護職員の離職率は減少していると学研ココファンの木村事業本部長は述べる。
同社によると、6カ月以下で辞める、いわゆる短期離職者の割合は約3割と変わらないものの、6カ月以上経過した職員が辞める割合は前期比で10ポイント程度下がっているという。
木村本部長は、離職率低下の要因は一つではなく多面的と前置きした上でこう述べる。
「以前より処遇改善や研修など手を打ってきた。そのような中、コロナという社会的背景から防疫備品の充実など、職員の安全衛生対策も強化した。職員アンケートでもネガティブな回答が減っており、これら感染対策への安心感が職員満足度の向上や離職率にも影響を与えたのでは」。
■既存職員の離職率低下、コロナ禍では大手に追い風?
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