【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長・教授 京極真】
Q 患者さんのご家族から、「スタッフが忙しそうにしていて聞きたいことがあっても聞けない」「スタッフの対応がその時々で異なるため何を信頼したらよいか分からない」などといったクレームを受けました。スタッフに確認したところ、何でそんなことを言われなければいけないのか…と不満げな表情を浮かべていました。患者さんに対する良質なケアはご家族との協力関係があってこそ実現できるので、患者家族と医療者の衝突にどう対処していけばよいか知りたいです。
患者家族との間で生じる意見の不一致や、価値観の齟齬の文脈を把握するようにしてください。さすれば、おおよその対処法を見いだすことができます。
■患者家族と医療者の間で信念対立が生じる理由を理解する
患者家族との信念対立は、患者が自ら意思決定することが難しいケースにおいて生じやすい傾向があります。例えば、重度の認知症を持つ患者さん、重症心身障害を持つお子さん、重度の精神障害を持つ患者さん等の場合、患者家族が治療に関する意思決定に参加することになります。多くのケースでは、患者家族との間で意見を擦り合わせながら、協働することができているかもしれません。しかし、文脈によっては、患者家族が意思決定に参加する場面で、意見の不一致や価値観の齟齬といった問題が起こる可能性があります。その文脈を大きく示すと、情報・システム・関係の問題などがあります[1]。
(1)情報の問題
情報の問題には、不十分な量、首尾一貫しない内容、アンタイムリーなどがあります。例えば、患者家族に提供される情報が不足している場合、患者家族は情報不足によって意思決定を難しく感じるため、フラストレーションをためたり、コミュニケーションエラーを体験したりすることがあります。また、提供される情報に矛盾があったり、タイムリーに提供されていなかったりしても、医療者とのコミュニケーションに齟齬が生じるため意見の不一致を体験しやすくなります。
(2)システムの問題
次に、システムの問題としてはマンパワー不足、長い待ち時間などが含まれます。例えば、医療者のマンパワーが不足していると、病院・施設がとても忙しい雰囲気になります。すると、患者家族は意思決定するに当たって、医療者に相談したいことがあったとしても遠慮してしまい、必要な支援が得られなかったという不満を感じることがあります。また、診察や手続きの待ち時間が長くなると、「他にもやることがあるのに、いつまで待たされるのか」「待っている間に体調が悪くなるのではないか」などと不満を感じて、医療者に対する敵意へと変換されることがあります。
(3)関係の問題
最後に、関係の問題には権力のヒエラルキー、コミュニケーションエラー、コミュニケーション不足、役割期待のズレなどがあります。例えば、患者家族に比べて医療者の立場が強いと感じられる場合、意思決定に当たって聞きたいことや言いたいことがあってもできず、不満を押し殺して迎合するといったことが起こります。すると、権力に対して服従する形になりますから、腹の底で不平不満がたまっていき衝突が生じる場合があります。コミュニケーションのエラーや不足も、意思決定における意見の不一致や価値観の齟齬の土壌となります。また、患者家族がケアに望むことと、医療者がケアに求めることにギャップがあると、それもまた衝突を誘発することになります。
■どう対処したらいいか
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