【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
科学的介護情報システム(Long-term care Information system For Evidence;LIFE ライフ)が、2021年度介護報酬改定に要件として組み込まれた。いよいよ本格的な運用が始まろうとしている。科学的介護は、21年度改定の概要に示された5本柱のうち3つ目の「自立支援・重度化防止の取組の推進」に該当する。その中でLIFEは、介護サービスの質の評価と科学的介護の取り組みを推進するための、重要なツールという位置付けである。「自立支援」という法の理念に資することを目的に、「科学」という切り口からアプローチすることを意味している。とはいえ、介護職やケアマネジャーの中には「科学」という言葉に魅力を感じる人もいれば、一種のアレルギー反応を見せる人もいる。
科学的介護情報システムのLIFEは、QOL(Quality of Life)のLife と、あたかも掛け合わせたかのように見える。ややもすれば、医療者の多くは命という視点からのLife、介護職は生活という視点からLifeを見ているようだが、両者は利用者(患者)の「人生」を支えるという点で価値を共有できる可能性がある。その両者をつなぐものは何か。
私たちを取り巻く環境は少子高齢化、人口減少社会が進展し、後期高齢者だけでなく85歳以上の高齢者が増加する中で、現状のレベルを維持・推進するには限られた資源である医療・介護の専門職を最大限に活用することが求められている。そのためには、医療・介護連携の在り方を一層効果的なものにしなければ、要介護高齢者のQOLは保たれない。介護専門職はこうした厳しい社会変化の中でも、専門的な関与を必要とする要介護者に対するサービスの質を低下させることなく、まさにLifeを守るケアを提供し続けられるということを社会に実感してもらう必要がある。
つまり今後、医療・介護職は少数精鋭で、効果のあるケアを効率的に提供することが求められてくる。「共有」できる知と情報を持ちながらケアを行うには、標準化と平準化が求められる。それを可能とするためには、「科学」を抜きに介護の進展はあり得ない。こうした変化を積極的に捉えることができれば、利用者・事業所の双方に大きなメリットがあるだろう。
一方で、LIFEを「手間の掛かる、やりたくない作業だ」といやいや取り組み、「加算のために仕方ない」と、本来の目的からすり替わってしまえば、作業効率は低下するし、何より事業所の雰囲気もどんよりとしたものになってしまう。今回の改定を機に、介護職やケアマネジャーの立場から見た「介護と科学の関係」とはどのようなものか、一度整理をしてみてはどうか。ツールに使われる、支配された仕事ぶりになるのではなく、新しい方法とツールの可能性を想像し、それらを駆使して発展させるという“素養”を身に付けることが、結果として科学的介護を成功させる近道になるだろう。ある意味、“素養”を醸成することも含め、これまでの介護領域における教育に足りない部分だったかもしれない。
だからこそ本稿では、LIFEの登録方法、活用方法の具体は手引き書等に譲るが、科学的介護やLIFEへの期待と併せ、介護職やケアマネジャーがこれらと付き合う際の心構えや考え方の整理を、筆者なりに試みたい。
(残り2753字 / 全4168字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】