【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
2021年度介護報酬改定で初めて使われた言葉がある。「テクノロジー」である。しかし実際には、テクノロジーの活用は18年度介護報酬改定からすでに始まっていた。それは施設の「夜間職員配置加算」である。当時、この加算を大きく取り上げて語る人はまれだった。仮に取り上げられても、「こんなちっぽけな評価では意味がない」といった酷評だった。しかし、筆者は違う解釈をしていた。
■ロボットが人の代わりとなる概念を作った18年度改定
この加算案を初めて見たのは、17年初夏、筆者が厚生労働省の職員として省内の会議に出席した時である。当時、極めて大きなショックを受けたというのが正直な印象で、当時の会議の光景と共に忘れられない出来事になっている。「夜間職員配置加算」の算定要件は確かに華々しいものではない。しかし、あえて目立たないその要件にこそ意味がある。この加算のポイントは2つあり、制度上において、(1)ロボットを「人」の代わりにカウントすることが可能という概念を作ったこと、(2)ロボットは人に代わることができるという前例を作ったことだ。要するに、次期改定(21年度)の布石となるミッションを持つこの加算は、むしろ目立ってはならなかった。
人員配置基準は、指定介護事業所が指定を受ける際の絶対要件で、構造的基準である。人員配置基準を満たせなくなれば指定取消となるし、人の確保ができずに倒産した施設もあった。他方、医療や介護の質の評価という観点から、「ドナベディアン・モデル」(※)に当てはめると、人員配置基準はストラクチャー評価に該当する。この加算が持つ特徴は、介護保険制度内の加算の一つという位置付けを超えて、対人援助を行う他の社会保障制度の人員配置基準構造にさえも影響を及ぼしかねないくらい、大きなインパクトがある。そう解釈した。この加算を初めて見た17年初夏に、これら一連のことを考えながら、少子化と高齢化が同時に到来する我が国の未来にある介護の姿を想像していた。
※医療の質の評価を「構造(structure)」「過程(process)」「結果(outcome)」という3つの側面から行うこと。
■テクノロジーは24年度改定の布石
21年度介護報酬改定での機器の取り扱いに関する記述は、単に機器を使用するという記載でもなく、ICTやセンサー(ロボット)といった特定の機器を示す記載でもなかった。「テクノロジーの活用や人員基準・運営基準の緩和を通じた業務効率化・業務負担軽減の推進」と示された。テクノロジー活用と人員基準を並列で表記するなど、18年度とは打って変わり、極めて直接的な表現になった。
同時に、「テクノロジー」というあらゆる革新技術の活用を想定した言葉が選ばれたことにも、着目したい。その意図を想像すれば、今期はもちろんのこと、次期改定(24年度)以降も、▽人員配置基準の合理化を進めること▽データ収集、AIを活用した分析による科学的に効果の認められるケアを現場に還元すること▽それによって、少ない人員でも自立支援の効果を認められる方策を見いだすこと-という方向性が浮かび上がる。つまり18年度に静かに植えられた「夜間職員配置加算」という種が芽を出して、皆にその存在を認識されるようになり、21年度改定で茎や葉を生い茂らせ、次の24年度改定で開花するように仕込まれた。これも布石と言える。
(残り3030字 / 全4459字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】