【株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺優】
■「地域に緩和ケア病棟が足りないから、うちで開設しよう」は正しい判断か?
緩和ケア病棟の設置状況は、地域により大きな差がある。急性期病床(※)の病床数に対する緩和ケア病棟入院料の病床数の比率を、都道府県別に比較した=グラフ1=。さらに、全国平均におけるこの比率を100%として、都道府県を比較し直した=グラフ2=。熊本は全国平均の2.5倍以上の緩和ケア病床がある。一方、山梨や和歌山、石川、静岡、奈良などは、全国平均の半分にも満たない。熊本と山梨を比較すると、実に9倍以上の差異がある。
※急性期病床:本記事では次の入院料を算定する病棟と定義。急性期一般入院料、特定機能病院入院基本料、専門病院入院基本料、特定集中治療室管理料、救命救急入院料、ハイケアユニット入院医療管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料、総合周産期特定集中治療室管理料、新生児特定集中治療室管理料、新生児治療回復室入院医療管理料
グラフ1 急性期病床に対する緩和ケア病棟入院料の病床数比率
病床機能報告(2018年度報告)を基に作成(以下、同様)
グラフ2 急性期病床に対する緩和ケア病棟入院料の病床数比率(全国平均を100%とした時の比率)
地域でがん診療に力を入れている病院において、緩和ケア病床の不足感があり、かつ、グラフ1、2のような地域差からも緩和ケア病床の整備の必要性を感じたとする。このような根拠で、緩和ケア病棟を設置しようと判断するのは適切だろうか。
■緩和ケア病棟の稼働は読みづらい
緩和ケア病棟の設置を考えるならば、周辺病院の稼働状況を把握したい。そこで、都道府県別の稼働率を比較した=グラフ3=。グラフ1、2における病床比率上位5県(熊本、福岡、沖縄、三重、愛媛)を緑色に、下位5県(山梨、和歌山、石川、静岡、奈良)を黄色にした。緑色の病床の多い県は稼働が低く、黄色は稼働が高くなることを期待したが、その傾向は見られない。
グラフ3 緩和ケア病棟入院料の病床稼働率(緑:病床比率上位5県 黄:病床比率下位5県)
平均在棟日数の比較も同様に行った=グラフ4=。全国平均は30日前後だが、地域により大きな差がある。またグラフ3同様、緑と黄の色付けの結果から考えると、急性期病床に対する緩和ケア病床の多寡が、平均在棟日数に影響しているとは考えにくい。
グラフ4 緩和ケア病棟入院料の平均在棟日数(緑:病床比率上位5県 黄:病床比率下位5県)
次に、施設ごとの病床稼働率と平均在棟日数の分布を見た=グラフ5=。稼働率は50%から100%弱までと幅広く分布し、在棟日数は20日から40日くらいの所に集中している。この結果から明確な傾向は見えない。これは、緩和ケア病床の整備状況などの医療提供体制が地域で異なる以上に、施設ごとの運営方針が大きく異なっているためと思われる。
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次回配信は3月3日5:00を予定しています
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