【法律事務所おかげさま 代表弁護士 外岡潤】
今回は在宅(訪問系)におけるトラブルの事例です。これまで見てきた施設系と違い、訪問の場合は、こちらから職員の派遣をストップすれば事業所からの解除を実行できる(その後、利用者側から解除無効の訴えを提起される可能性はありますが)ため、それほど深刻ではないのですが、暴力を振るうといった明らかな態様ではなく、言葉の暴力や態度が主な原因である場合、どうすればよいかを解説します。なお以下の事例は、筆者が経験したケースを適宜改変したものです。
訪問介護の利用者家族(娘)が悪質なクレーマーであるケース:
利用者Aさん(84歳女性、要介護度3、中度認知症、一人暮らし)
利用者の長女Bさん(Aさん宅から徒歩5分の距離で暮らす。仕事で忙しく月1、2回程度しかAさんの様子を見に行けない)
Bさんの問題点:
契約後3カ月ほどしてから、毎月の利用料を滞納するようになった。事業所から毎回電話で催促するが、留守電に用件を吹き込んでも返答がないことが多く、たまに出ると「仕事中にかけてこないでって言ってるでしょ」などと、興奮した口調で相手を責めるばかりで、滞納について謝罪することはなかった。現在、1カ月分遅れて振り込むことが常態化している。
ヘルパーに対する指示が非常に細かく、新人ヘルパーには手順書を見せ完璧にできるようになるまで「指導」するということが繰り返されていた。事業所から「手順書を見せてほしい」と頼んでも応じず、ヘルパーが訪問するとこの手順書をその場で暗唱させられる。「そんなこと一般社会だったら通用しない。私が指導してやっているんだから感謝しなさい」が口癖。
感情の起伏が激しく、機嫌の良い時は「そちら様のサービスのおかげで母の在宅生活が維持できています」など、感謝の言葉を口にすることもあるが、機嫌の悪い時はささいなミスを激しくとがめて執拗に電話やメールを繰り返し、直ちに返答するよう要求してくる。退勤時間間近など、職員が対応しきれない時は、地域包括支援センターや介護保険課、国保連等に苦情を申し立てる。
極度の潔癖症で、新型コロナウイルスの感染が拡大した時は、ヘルパーに対し「入室する前に必ず消毒液で手を洗い、手袋とマスクをしっかりして、靴下も替えてください」などと指示していた。「靴下までは対応しかねる」とサービス提供責任者が返答したところ激昂し、「あんたたちのせいで母がコロナになったらどうしてくれるんだ。訴えてやる」と叫んだ。
なお、利用者Aさんには目立った問題はなく、職員との関係も良好である。しかしAさんは認知症であり、Bさんのせいで事業所との関係が悪化していることを理解できない。娘のことを誇りに思っており、全幅の信頼を寄せている。
サービス利用契約書には、事業所からの解除について次の通り定められていた。
「事業者は、利用者の著しい不信行為により契約の継続が困難になった場合は、その理由を記載した文書により、この契約を解除する事が出来ます。」
いかがでしょうか。多かれ少なかれ、本件のようなクレーマーに悩まされている事業所は多いのではないかと思います。「下手なことを言ってますます激昂されても困るし、さりとて現場職員のストレスは募るばかりで退職されかねない…といった状況の中、腫れ物に触るように苦心して何とか関係を維持してきたがもう限界」、という事業者が筆者の所へ相談に来られます。
前シリーズの第2回でご紹介したハラスメントへの基本対処指針を復習しておきましょう。
ポイントはこの3つでした。本件は2に該当し、「警告」をすることになります。サッカーでいうところのイエローカードですが、利用者または家族がこれに従わない場合に、レッドカード(解除通知)を出すことになります。
具体的には、「相手の問題点を文章で明確化し、求める行動を客観的に定めること」ですが、これを図のような合意書の形で作成します。
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