【吉備国際大学 保健医療福祉学部 作業療法学科 学科長・教授 京極真】
Q ある患者から「主治医の治療方針に納得できない!」とクレームがありました。主治医は、その患者との間で特に問題がなかったと認識していたので、大変驚いていました。その後、家族も加わってかなりもめたため、最終的には納得されたものの、患者も含めて皆が疲弊しました。スタッフは「気付かなかった」と言っていますが、どうして患者の不満に気付くことができなかったのでしょうか。
「患者-医療者間」の信念対立は潜在化しやすいためです。患者-医療者間で信念対立が生じる理由を理解し、積極的なコミュニケーションを心掛けましょう。
■患者-医療者間には力の序列がある
患者-医療者間の信念対立が潜在化しやすい理由は、患者-医療者間に権力のヒエラルキーが存在しているからです。権力のヒエラルキーとは、人間関係の中にある力の序列です。
医療現場には、さまざまな権力のヒエラルキーが存在しています。以前から、医療者が治療決定を主導し、患者がそれに従うという力の序列が成立してきました。患者は医療者に対する従属的役割が暗に期待されてきたわけです。権力のヒエラルキーが背景にあると、患者は抑圧された状態に置かれるため、医療者の治療方針に納得できないと感じても、そう簡単に表明することができません。その結果として、患者-医療者間の信念対立は潜在化しやすい傾向があるのです。
信念対立の潜在化は、それが存在しないという意味ではありません。推定にバラツキがあるものの、先行研究によって、患者-医療者間で生じる対立の発生率は25%から40%程度あることが示されています[1][2][3]。医療現場における患者-医療者間の信念対立が潜在化しやすい傾向にあると考えると、比較的高い発生率であると考えられます。また、患者は医療者との人間関係の中で衝突を経験し、苦悩を深めて、時にそれがエスカレートしていきます[4]。
今回のケースでも、
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