【法律事務所おかげさま 代表弁護士 外岡潤】
本年2月から3回にわたり「ケアハラスメント」対策について解説しました。ケアハラスメントとは、介護サービスの利用者あるいはその家族による恫喝的、性的な言動や、職員の人格を否定し精神的苦痛を与えるような行為を言います。本稿ではその応用編として、事例を中心に実務上での注意点についてお伝えします。
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■「室内暴走利用者」から職員の身を守るには?
ある株式会社が運営する住宅型有料老人ホームに、男性の入居者がいました。まだ60歳代と若い方ですが、脳梗塞により片麻痺となったため入居され、同じ会社が運営する訪問介護サービスも利用しています。電動車いすで施設内を自由に移動しています。
この方は認知症ではありませんが、支援してきた関係者によれば、「正式な診断は下りていないが、精神疾患を抱えているようである」との見立てでした。入居当初は問題なく周囲ともコミュニケーションが取れていましたが、半年前に施設長が変わった途端、急に言動が粗暴となり、次のような問題行動が起きました。
・おやつのドーナツを持って行ったところ「こんな物食えるか!」と、皿とおやつを職員に投げ付けた。幸い職員にけがはなかった。
・「殴るぞ!」と言い、手を上げて殴るジェスチャーをした。
・配膳もしくは服薬をしようとすると「てめえ」と言い、胸ぐらをつかむ。他の職員が手を離すように援助しても、絶対に離さない。「おまえらは教育がなってない。俺が教育してやる」が口癖。
そのような中、フロア内で、職員が当該利用者から電動車いすごと体当たりされるという事件が起きました。
・食後の歯磨きが終わり、入居者が車いすで目の前を通ったので職員が通行の邪魔にならないようよけたところ、突然激高し「出てこい!」と怒鳴った。どうやら、当日の食事の形態について、説明がないまま前日までと異なっていたことが動機になったらしい。
・職員が恐怖を覚え逃げようとすると、電動車いすで追い掛けて廊下の端まで追い詰め、何度か車いすごと体当たりしてきた。その結果、職員は左脛を打撲し、あざができた。それでも入居者は収まらず手を上げて怒鳴り散らし、職員が他の入居者の居室に逃げるとドア前に車いすを横付けし、職員が出られないようにした。
・事務所にいた上長が異変に気付き食堂に来て、間に入って対応した。入居者は興奮が収まらず、「ぶっ殺してやるぞ!」等と叫んでいた。
いかがでしょうか。このように過度に暴力的な入居者は、医師の診察を受けさせることが可能であれば、興奮状態を鎮める薬等が処方されて状況の改善も見込めるのですが、問題は入居者本人や家族が受診を拒否するような場合です。
このように危険な入居者を現場で放置していては、またいつ第2、第3の被害が生じるか分からず、危険極まりないと言えます。職員も耐え切れずに辞めてしまう、あるいは攻撃されたことに激高して手を出してしまい、身体的虐待に発展してしまう等の事態も懸念されるところです。
法的には、
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