【株式会社メディチュア 代表取締役 渡辺優】
■看護師の離職率を下げる取り組みの重要性と留意点
いまさら言うまでもないが、病院経営において看護師の確保は重要である。病院は労働集約型産業であり、人手による業務が高い割合を占める。当然、病院の支出のうち人件費は大きな割合を占めており、その中でも看護師の割合が高い。そこで2回にわたり、看護師の離職率(今回)、新卒看護師の採用状況(次回)について、データ分析結果から見えてくることを考えてみる。
看護師の離職などでその人数が不足すれば、診療報酬の大幅な減収を招く可能性がある。看護師の不足が常態化すれば、医療安全などの「医療の質」への懸念も生じる。また、不足を補うために看護師を確保するには、採用・育成に費用と時間がかかる。そのため多くの病院では、看護師の離職率低下を目標に掲げている。その際、離職率の目標として、日本看護協会が毎年実施している「病院看護実態調査」の結果を参考にする病院が少なくない。その場合、次の3点に留意すべきだろう。
1.採用1年以内の看護師の離職率
2.病床規模ごとの離職率
3.離職率の地域性
■採用1年以内離職率の深刻さ
グラフ1 新卒・既卒などの属性別 病院看護職員離職率推移
日本看護協会 病院看護実態調査(2019年)を基に作成
看護職員を正規雇用した年度中の離職率を比較すると、新卒の離職率は低く、既卒(すでに看護職員として実務経験のある人)の離職率は高い=グラフ1=。グラフ1に点線で示した値は、新卒・既卒のいずれも採用から1年以内の正規雇用の離職率である。
採用してすぐ辞められてしまうのは、「採用コスト・教育コスト」と「戦力として働いた成果」のバランスが悪く、病院にとってかなりきつい。既卒は即戦力だと思うかもしれないが、病院ごとの業務ルール・システムへの慣れや、スタッフとのコミュニケーションの慣れなど、100%の能力を発揮するまでには、採用された看護師のみならず周囲のスタッフにも負担が生じる。離職率の目標は、新卒・既卒に分けて採用1年以内、3年以内といった期間で区切り、設定することが重要だろう。
また当然、全体の離職率も重要である。グラフ1の採用後1年以内も含んだ「正規雇用」の離職率推移を見ると、2013年度から18年度までほとんど値は変わっていないが、わずかながら減少傾向にある。これは多くの病院が、離職率低下に取り組んでいる成果ではないかと考えている。
さらに病床規模別に18年度、17年度の離職率について比較した=グラフ2=。
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次回配信は10月14日5:00を予定しています
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