【国際医療福祉大学大学院 医療福祉経営専攻 教授 石山麗子】
7月17日に閣議決定された、「骨太方針2020」(以下、骨太)はご存知の通り、政府の次年度予算や重要施策について示したものだ。ケアマネジャーに関して打ち出されているものがあるか、確認した。ケアマネジャー、ケアマネジメント、居宅介護支援といったキーワードは、骨太には一度も出てこない。しかし、「ケアプラン」というキーワードが一度だけ出現する。ケアマネジャーにとって直接的に関わりがあるのは、唯一この「ケアプランへのAI活用を推進する」のくだりである。
AI(人工知能)によるケアプラン作成支援を、厚生労働省が研究事業として初めて取り扱ったのは、2016年だった。当時、担当官をさせていただいていたのでよく覚えている。ご記憶の方もいらっしゃると思うが、囲碁の世界でコンピューター・プログラムによる「アルファ碁」が人間に勝利し、話題になった時である。まさにその直後、老健事業でAIケアプランについての研究を立てることになった。当然、AIの知識などないし、ケアマネジャー関連の老健事業では過去に前例がない研究テーマである。なじみのない用語ばかりなので、分からないなりにAI関連の本を読んでいた。
AIケアプラン研究の位置付けが確立されてきた経緯
今回の本論から少し離れるが、ケアマネジャーとAIの関係、AIケアプランの基盤がどう作られたかについて、大切なエピソードなので共有しておきたい。当時は、今よりもあからさまにケアマネジャーのケアプランの質が批判されることが多い時代だった。実は、AIの導入は、ケアプランの質を担保するために、ケアマネジャーに代わる存在として外部から研究が提案されたものだった。AIケアプランの始まりは、そこからもたらされた。
介護支援専門官としては、AIケアプランの研究開始から2年間ほどは、事あるごとにケアマネジャーとAIケアプランの関係を「AIケアプランは、ケアマネジャーに代わるものではなく、ケアマネジャーが一次活用するツール」だと、意識して言い続けた。それはある意味、AIケアプランの研究における重要なミッションの一つだった。私がこのような行動を取り続けることができたのは、ある方のおかげだと今も感謝している。
その方は、普段ほとんど話す機会のない省内の他部署の方である。AIケアプランの話が出てしばらくすると、わざわざ私の所へ来て、「AIにケアマネジャーの仕事を取られたくなければ、今、AIとの関係性を明確にしないと、もう軌道修正はできなくなりますよ。はっきりするなら今しかないですよ」と助言をくださった。ご存知の通り、行政は縦割り文化なので、普通なら他の部署の所掌事項に、しかも普段は話もしない職員に、わざわざ助言をいただけることなど皆無である。もし、その方の言葉がなければ私は、当時のあからさまなケアマネジャー批判、AIケアプランが絶対視される中で、その潮流と逆の考えを2年間言い続けることはできなかったと思う。
実は、表には登場しないこのような陰の、しかし最も本質的な支えをくださる方の存在によって、今のAIとケアマネジャーの関係性があり、AIケアプラン研究の位置付けが確立されてきた経緯があることを、ケアマネジャーには知っておいてほしい。
さて、このような経過からも、
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