【北海道介護福祉道場 あかい花代表 菊地雅洋】
政府は17日に臨時閣議を開き、「経済財政運営と改革の基本方針2020」(骨太方針2020)を決定した。介護分野については、他の分野と同様に「ニューノーマル」への移行を目指す構想が示されており、以下のように記載されている。
このように、介護分野の最大のテーマは「生産性の向上」であるとされている。生産性の向上とは、「投入資源を有効活用して、最大限の成果を生み出すこと」を意味する。つまり、より少ないインプット(資源)でより多くのアウトプット(成果)を出せば、「生産性が高い」ということになり、業務効率化とは生産性を高めるための方法論であることが分かる。
しかし、介護サービスという対人援助領域において、アウトプットは時として数値化できない人の感情という問題として判断せざるを得ない場合が多い。この部分を無視して数値化できるアウトプットだけを見て、人手と時間をかけないサービスが推奨されるとしたら、その受け手の満足感は切り捨てられる恐れがある。
介護を提供する人が認知症の人と十分なコミュニケーションを取っても、認知症の人は落ち着いていたその時の記憶をすぐに失ってしまう傾向にある。このため、そのようなコミュニケーションを重視する仕事ぶりは生産性が低いとして、コミュニケーションの時間も省かれるのが、「生産性向上の論理」でもある。
このように、サービスを受ける人の満足度を無視して決められた仕事を素早くこなし、後は手をかけないというのが生産性向上の論理の一面でもある。満足の最大値は無視し、最小限度のサービスを提供していれば生産性が向上したと評価される。このように、目標ありきの生産性向上論は、利用者ニーズを無視した事業者都合のサービス提供をはびこらせる結果となる危険性がある。
生産性が低いという理由で、「暮らし」が切り捨てられる場面が、これからますます増えるという懸念が拭い切れない。こうした場面が増えることは、すなわち国民の福祉の質の低下を意味するのではないだろうか。
■「宇宙戦艦ヤマト」に出てくるロボットは現場にいない
(残り3201字 / 全4310字)
この記事は有料会員限定です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
【関連記事】