【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
緊急事態宣言が解除され、6月に入り世の中は少しずつ動き出している。これは病院も同じであり、4月・5月に最悪の状況を迎えた急性期病院の病床稼働率も、徐々に戻ってきている。一方で回復期や慢性期病院は6月以降にダメージが出てくるかもしれない。なお、6月は賞与支給月でもあり、財務的にはより深刻さを増す医療機関も存在するだろう。なにしろ、診療月と診療報酬の入金月にはタイムラグがあるわけであり、6月・7月は病院経営においてターニングポイントになるかもしれない。
前稿では、日本病院会・全⽇本病院協会・⽇本医療法⼈協会の「新型コロナウイルス感染拡⼤による病院経営状況緊急調査(速報)」から診療データを抽出し、さらに、高度急性期病院であり、かつ財務的にも優良病院である大垣市民病院等との比較を行った。
全体的に、入院・外来共に患者数は激減しているのに対して、診療単価は特に外来で上昇していた。入院患者数については、手術制限や救急車搬送の減少により新入院患者が激減していた。ただし、三次救急のような重症患者については、減少していない可能性があることを指摘した。新入院の伸び悩みにより、平均在院日数は増加傾向にあったが、診療報酬改定の影響等もあり、入院診療単価は微増していた。
また、外来は初再診共に減少傾向にあったが、特に初診の紹介患者が減少していた。ただし、外来化学療法は減少せず、むしろ増加しており、診療単価は大幅に上昇していた。
このような4月の診療状況について整理した上で、窮地に陥っている病院に向けて、今すぐ取り得る幾つかの施策を、前稿では提案した。
ただ、事態は予断を許さない状況にあり、不安を抱える日々が続く。本稿では、日本病院会・全⽇本病院協会・⽇本医療法⼈協会からの「新型コロナウイルス感染拡大による 病院経営状況緊急調査(最終報告)」を確認した上で、コロナ環境下の中長期的な病院方針をどう考えるか、病院経営者が肝に銘じるべきことについて言及する。
表 (クリックでPDFが開きます)
日本病院会・全日本病院協会・日本医療法人協会、「新型コロナウイルス感染拡大による病院経営状況緊急調査(最終報告) 2020年5月27日」を基に作成
表は、日病等から5月に出された報告書の最終版の数値を基に作成し、「推計」と記した項目は私が試算したものである。
全体的に稼働額の減少幅が大きいのは、8の特定警戒都道府県に立地する病院あるいはコロナ入院患者の受け入れ病院という結果になった。特に、東京都でコロナ入院患者を受け入れた病院は、対前年比で医業収入がマイナス22.1%であり、医業利益率は前年の1.2%に対して、この4月はマイナス24.2%まで悪化していた。
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