【横浜市立大大学院国際マネジメント研究科 准教授 黒木淳】
24日、東京オリンピックの延期について、日本政府と国際オリンピック委員会との間で合意がなされたという報道があった。思い返せば、1月末には新型コロナウイルスについて少し話題になる程度であった。その後、新型コロナウイルスに対する基本方針が出され、厚生労働省は基本方針の具体化に向けた考え方を公表し、「これはえらいことになった」と誰もが思っていたのが2月25日である。
以上は、2カ月前の原稿を見直しながら思い出したことであるが、その間に新型コロナウイルスは世界に広まった。新型コロナウイルスは中国、アジア圏だけで、欧米にここまで広範囲に広まると予想していた人は、1月の段階では少なかったのではないだろうか。
この1カ月、オリンピックの延期決定に伴う対応に、どこまでリスクを織り込むのかについて、日々思料していた。読者も共通しているかもしれないが、来年夏までの延期日程を含めて、大学の来年度のカリキュラムやスケジュールの調整をしていかないといけないであろう。
一方、ポジティブな側面として、この狭い日本の中で遠隔対応が浸透しつつあることである。遠隔機器についての対応は、狭い国土に多くの国民が居住する日本では、どこか広がりにくい傾向にあった。しかし、大学の講義開始を目指して、これまで議論もされていなかった遠隔による演習・講義の実現について議論がなされている。
病院においては、新型コロナウイルスは高齢者の重症化率が高いこともあり、高齢者が外来に行くことをためらっていることが推察される。このような中で、今まで手間やコストなどのデメリットの方が強調されていた遠隔医療の実質化や高度化が、一気に進むかもしれない。
これらの状況は、プロジェクトや建設など、1年以上の長期にわたる資産に対する投資意思決定と同じである。投資意思決定では、将来得られるリターンについて予測し、そのリターンに対する不確実性をリスクとして織り込み、その現在価値がいくらかを計算する。このリターンの現在価値から投資額を引いた差額がプラスであれば、その投資は「行うべき」との結論になる。
例えば、新病院の建て替え費用が80億円、1年目の医業利益が6億円、2年目以降の医業利益が10億円として、10年間の固定金利5%の借入金で建設投資意思決定に悩んでいたとしよう。そして,医業利益は毎年優先的に返済に充てられるとしよう。
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