【千葉大学医学部附属病院 副病院長、病院経営管理学研究センター長、ちば医経塾塾長 井上貴裕】
2014年度診療報酬改定で地域包括ケア病棟が評価されてから、「重症度、医療・看護必要度」(以下、看護必要度)の厳格化等の影響もあり、病棟は順調に増加してきた=表1=。
地域包括ケア病棟は看護必要度の基準が緩く、地域ニーズに合った医療提供ができ、点数設定も魅力的で、収益を上げやすいことが16年度の厚生労働省の調査で分かった。
さらに、18年度の同調査でも経営が安定するという医療機関が多く、急性期病床での赤字を取り戻すため、当該病棟を設置する動きが見られた=グラフ1、2=。
病院が継続的な事業体であるためには、一定の利益が必要なのは言うまでもない。ある意味、病院の自然な行動が病棟を増加させたことになる。しかしながら、医療費抑制の環境下で、さらに災害復興等で多額の予算が必要な我が国の財政状況からすると、もうかると自ら回答してしまえば、絞られる運命なのは当然ともいえる。
地域包括ケア病棟協会の仲井培雄会長と、筆者の井上貴裕氏による講演と対談を行います。今、病棟をめぐる最も「濃い」議論が交わされるはずです。
表1 地域包括ケア病棟入院料・地域包括ケア入院医療管理料の届け出状況
グラフ1、2 地域包括ケア病棟・病室を届け出ている理由
中央社会保険医療協議会「入院医療等の調査・評価分科会」(2017年6月7日)資料より
中央社会保険医療協議会「入院医療等の調査・評価分科会」(2019年6月7日)資料より
私は14年度の病棟新設当時から、地域包括ケア病棟の未来予想のスライド=表2=を講演会等で一貫して使ってきた。評価された当初はバラ色の未来と感じた方もいるだろうが、いい時はそう長くは続くまいと考えてきた。
(2)の在宅から一定割合を入院させることが適正利用であるのは、ある意味当然で、18年度診療報酬改定でも、200床未満の病院に限っては10%以上とされた。今後、このハードルは段階的に上がっていくだろうし、200床以上の病院にも課されるのではないか。
(3)の「10対1、13対1との再編統合、回復期リハビリテーション病棟との違いが問われる」についても、18年度の改定で図1のようなストーリーが示された。10対1という予想は外れたかにも見えるが、看護職員配置加算を入れると実質10対1になる。旧13対1、15対1の地域一般入院基本料は、やがて地域包括ケア病棟に取り込まれるだろうし、病院もその選択を自ら下した方がいいはずだ(連載第91回)。また、回復期リハビリテーション病棟はアウトカムが残せる施設に限られ、中途半端な所は生き残れず、地域包括ケア病棟に集約されるだろう。
図1 新たな入院医療の評価体系と主な機能(イメージ)
平成30年度診療報酬改定説明会資料より
一番重要な点が(1)の地域包括ケア入院医療管理料と同様に、地域包括ケア病棟でも、DPC/PDPSの点数を引き継ぐというものだ。これが地域包括ケア病棟の運命を左右する。
病棟と病室で点数設定を変えた微妙な配慮が、ここまで地域包括ケア病棟を増加させてきた要因でもある。仮に(1)のようになれば、「はしご外しで、一気に魅力度が薄れる」という考え方もあるだろう。ただ、14年度当初は病棟単位が原則であり、病棟を増加させるため、転棟した患者には、地域包括ケア病棟入院料を算定することにしたのだろう。
とはいえ、図2に示すように、あるタイミングでの転棟が多く、かつ自院の急性期病棟からの転棟が多くを占める現実からすれば、“おいしいとこ取り”をする医療機関が多く、DPC/PDPSの点数を引き継ぐことは、どこかのタイミングでは、自然な流れではないだろうか=グラフ3=。
図2 DPC対象病棟からの転棟について
中央社会保険医療協議会「入院医療等の調査・評価分科会」(2019年7月25日)資料より
グラフ3 地域包括ケア病棟・病室の利用に係る趣旨
中央社会保険医療協議会「入院医療等の調査・評価分科会」(2019年6月7日)資料より
“一物二価”は是正すべきという声が多数あり、いずれの点数設定に合わせるのが妥当かは最終的には中央社会保険医療協議会の判断になる=図3=。ただし、病室単位に合わせるとなると、地域包括ケア病棟は減少する可能性が高い。一方で、病棟に合わせれば地域包括ケア病棟は、微増するかもしれない(200床未満の病院が病室単位なので、大幅な増加は期待できない)。どちらが正しいともいえないが、当該病棟の命運を握る議論になることは間違いがない。
今回は、仮に病室単位の報酬に合わせDPC/PDPSの点数を引き継ぐ場合に、病院としてどのような選択があるのか、さらに病床規模別の地域包括ケア病棟の設置状況から、今後の在り方を考える。
図3 一般病棟からの転棟・転室時の入院料の算定方法(イメージ)
中央社会保険医療協議会「入院医療等の調査・評価分科会」(2019年10月3日)資料より
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次回配信は11月25日5:00を予定しています
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